第5章

第74話 夏の始まり

「それじゃあハメを外しすぎないように」


 担任の先生がそういうと、教室中がここ最近突然うるさくなってきたセミの鳴き声よりも遥かに騒がしくなる。

 その理由は明日から学生なら誰もが待ちに待っている夏休みに突入するからだ。


 まあ実際のところ夏期講習やらなんやらで、そこまで遊ぶ時間が無いというのが現実ではあるが。


「ようやく休みかーっ。最高の気分だぜ」


「お前は女をたらすだけじゃなくて勉強もしろよ。もう高二の夏なんだから」


 俺がそう言うと亜蘭は何故か呆れたようにため息を吐いた。何かおかしなこと言ったか俺?


「……なぁ、颯一はちゃんと天川と夏休みに会う約束してるのか?」


「……え?」


 亜蘭に言われた俺は気付く。

 明日から夏休みが始まってしまうと、一ヶ月半近くは真白に会えなくなってしまうという事実に。


 ちょっと考えればわかることなのになぜそんなことに今まで気付かなかったのかと言われれば、ここ最近真白との関係性が順調に行きすぎていたことが理由として挙げられる。


 俺と真白の関係性が一気に深まったのは、琥珀さんから真白の父親の話を聞いたあの日がきっかけだ。 

 その翌日には俺に抱きつきたくてたまらなかった真白が、体育倉庫で俺に抱きついてきたなんてこともあったし俺たちの関係性は間違いなく深まっている。


 しかも、体育倉庫で一度俺に抱きついてから定期的に俺と抱きつくためにRINEでメッセージを送ってきて、あれからも何度か抱きついていたりもする。


 そんな状況に安心し、満足し、俺は真白との関係を先に進めようとしていなかったのだ。

 先に進めようという気がなかったから、明日から夏休みが始まってしまえば真白に会えなくなるということを全く考えられていなかったのだろう。


 そもそも真白とは会うことがなくなってしまえば、定期的に抱きついてもらうなんてこともできなくなる。

 そうならないためには俺のほうから真白に夏休みも会いたいという気持ちを伝えるしかない。


「じゃあ最近何か進展はあったのか?」


「えーっと……」


 真白の父親の話を聞いて、真白が俺に抱きつきたいと言って定期的に抱きついてくるようになったところまでは大幅な進展だった。

 しかしそれからは大した進展もなく、現状を壊したくないという想いからも現状維持となってしまっている。


「……はぁ。これだからDTは」


「DTで何が悪い⁉︎」


「ちょっとこい」


「えっ、ちょ、ちょっと⁉︎」


 亜蘭は突然俺の手を掴むと、俺を引っ張って歩き始めた。




 ◆◇




 亜蘭にファミレスに連れてこられた俺の前には亜蘭と三折、そして王子と姫路が座っている。

 えっ、なにこの状況、なんで俺だけ一人で面接みたいに壁側にすわらされてるの?


 てかなんで王子と姫路がここにいるんだ?


 そりゃまあ俺たちはこの二人の恋のキューピッドでもあるので、今後も関わっていくことになるだろうとは思っていたが。


「はい、それではシロシロと窪っちの『DokiDoki‼︎ 夏休み計画‼︎』の検討を開始します』」


「えっ、ちょっ、えっと……」


 ツッコミどころや気になるところがありすぎて、どこからツッコんでいいのかわからない。

 そんな状況で俺が何を話せばいいのかなんてわかるはずもなく、無言になってただこの場の流れに身を任せることしかできなかった。

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