第71話 またよろしくね

 ガタンッ! という大きな音に、俺は思わず真白から距離を取った。

 まさか誰かが体育倉庫の外側から俺たちのことを見ていたりしたのか?


 体育倉庫の扉側からしたその音が何の音なのか、を確認するため、恐る恐る扉を開ける。

 そして誰かいないかを確認するが、扉の前には誰もいない。


 しかし『ニャー』という声が聞こえてきて視線を下ろすと扉の前にいたのは猫だった。


「何だ……猫かよ……」


 体育倉庫の扉の前にいた猫を確認した俺は、我に帰って自分が後戻りできないような事件を起こそうとしていたことに肝を冷やした。


 いや、俺今真白にキスしようとしてたよな⁉︎ あのままキスしてたら俺と真白の関係どころか俺の高校生活自体が終わっていた可能性もある。


 こりゃこの猫に感謝しないとな。ここに住み着いているなら定期的にサバ缶でも持ってきてやろうか。


「びっくりしたね。でも猫でよかった。こんなところで二人っきりでいるの見られたら何してるんだって疑われてただろうし」


「まあ高校生の男女が体育倉庫に二人となれば抱きついたりキスしたりするくらいじゃすまないこともあるしな」


「--っ!! そ、それは確かにそうだね。誰かに見られないためにももう戻ろっか。同じタイミングで戻ると怪しまれるだろうから先に教室戻るね」


「わかった。あんまり挙動不審になるなよ」


「へへへ。私隠し事とか苦手だからなぁ。気をつけるね」


 よし、今の真白の雰囲気から察するに、俺がキスをしようとしていたことには気付かれていないようだ。


「ねぇ、颯一君」


「なんだ?」


「またよろしくね。充電」


「--っ! わ、わかった」


 そして俺は焼き鳥の時と同じように、真白と再び抱きつく約束をした。


 焼き鳥の約束が充電の約束に変化していることからもわかるように、俺たちの関係は間違いなく大幅に前進している。




 ◆◇




 ガタンッ! と大きな音を立ててしまった俺たちは、急いで体育倉庫の裏側へと回った。


「何だ……猫かよ……」


 よし、どうやら俺たちが颯一と天川の様子を盗み見ていたことなは気づかれなかったようだ。


「危なかったな……」


「スリル満点だったね。でも面白いものが見れたし危険を冒したかいがあったね」


 俺は三折に声をかけられて、颯一と天川の様子を見にきていた。

 颯一はうんこだと言っていたので、俺はその言葉を信じて疑っていなかったのだが、三折が『シロシロの様子がおかしい』というからついてきてみたらとんでもない場面を見てしまった。


 それにしても颯一が嘘をついてまで天川と二人きりで体育倉庫にきているとは……。

 颯一にそんなことができるようになっているとは驚きである。


「まさかキスしようとするとは思ってなかったわ。俺の近くにいすぎて颯一も俺化してきてるかもしれんな」


「そうかもね。いやー音立てちゃって申し訳無かったなー。私たちがいなかったらあのままキスしてたかもね」  


「その可能性は高いな。今度お詫びしとかないと。まあ何にせよもう二度とこんなことはしないからな。盗み見される側の人たちに申し訳ないし」


「えーいいじゃんまたこようよー」


「……そうだな、じゃあ次は二人きりでくるか?」


 そう言って、俺は三折に壁ドンをした。


 颯一が頑張ったのだから、次は俺が頑張る番である。

 まあ俺にとってはこんな行動朝飯前なんだけど。

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