第70話 二回目の……。

 真白はかれこれ十分以上俺に抱きついているが、俺はいまだにこの状況が飲み込めないでいる。


 とはいえ亜蘭のような女たらしでなくとも流石にわかるのは、真白にとって俺がただの男友達ではなくなっているということ。

 そうでなければわざわざ体育倉庫に俺を呼び出して、抱きついたりはしないだろう。


 もうそろそろ教室に戻らなければならない時間だし、そろそろ離れてほしいような離れてほしくないような……。


「…‥ありがと。もう十分充電できたから大丈夫そう」


 そう言って真白は俺から離れた。


 離れてほしいような、なんて考えていた俺だが、いざ離れられると本当は離れたくなかったんだと実感する。

 午後からの授業もあるのでいつかは終わりがやってくると決まった時間ではあったが、その名残惜しさは計り知れない。


「ならよかった。俺なんかで充電できるならいつでも呼んでくれ」


 真白のための言葉に聞こえるかもしれないが、それは五割くらいで、残りの五割は自分がもう一度真白に抱きついてほしいから言っている言葉である。


「ありがとね。そう言ってもらえると心強いよ」


「抱きつかれるだけなら難しい話じゃないからな……あっ、顔に埃ついてるぞ」


「え、どこ?」  


 真白の顔に埃がついているのを見つけた俺は、埃に向かって手を伸ばす。


「ちょっと待てよ……。よしっ、取れた」


「……」


 ……ん? なぜ埃を取り終わったというのに真白は何も言わずに俺のほうを見つめているのだろうか。

 埃を取り終わったらもう体育倉庫を出て教室に向かうつもりだったんだが……。


 いや、てか何度見ても真白は思わず吸い込まれてしまいそうになるくらい可愛いな。

 どの部位を取っても百点満点と言えるほどの可愛さを誇る真白が俺を体育倉庫に呼び出して抱きついてくれているだなんて信じられない。


 ていうかほんとこれ何? 何の時間?

 なぜ真白はいつまで経っても喋らず俺の方を向いているんだ?


 しかもなんかトロッとした目で、俺に何かを求めているように見えるんだが。

 そんな真白の表情に、俺は本当に吸い込まれるようにして少しずつ真白へ近づいて行く。


 これはまさか、まさかとは思うが真白が俺にキスを求めているのではないだろうか。

 抱きつきたくてたまらなくて俺を呼び出すくらいなので、その次の段階、キスを求めてくる可能性は大いにある。


 もしかしたら真白は、前回事故的にしたしまったキスを今回で上塗りしようとしているのかもしれない。


 事故的ではなく自分たちの意思で、自分たちがしたいと思ってしたキスは本当のキスだ。


 もし真白が俺と同じように俺に好意を寄せてくれておりこのままキスをしたら、前回の事故だって事故ではなくなる。


 真白がここまでしてくれておいて、ここで俺が逃げたとしたら俺は一生自分を恨むだろう。


 そうならないためにも、俺は少しずつ真白の顔へ自分の顔を近づけていった。

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