第69話 フィーバータイム
体育倉庫の中で真白から突然抱きつかれた俺は硬直してしまい、思考も停止し何が起こっているのか理解することができないでいた。
わざわざ体育倉庫に呼び出して抱きついてくるということは、この先を期待してもいいのか⁉︎
抱きついてくる以上のことを期待してしまってもいいっていうのかぁ⁉︎
……いや、冷静になれ俺。そんなことがあるはずないだろ。
抱きつくという行為も人前でするには憚られる行為だし、真白は俺に抱きつくのが目的で俺を体育倉庫に呼び出したのだろう。
心配するようなことはないと言っていたが、何の意味もなく抱きついてきたということはないはずなので、やはりショッキングで耐えきれない何かが起きて俺に助けを求めて来たはずだ。
まずは真白が俺に抱きついてくることになったショッキングな出来事が何なのかを聞かなければ。
「何か辛いことがあったんだな……」
そう言いながら俺は真白の頭を撫でた。
無理に理由を問い詰めるのではなく、まずは真白の気持ちを理解して共感することが大事だ。
自分の気持ちに共感してくれた人物の言葉でなければ耳を貸そう、相談しようとは思えないはずだし。
「えっ、辛いことなんて無いよ?」
え、辛いことが無い?
そんなはずはない、抱きついて来たのに辛いことが無かったのだとすれば、真白が俺に抱きついて来た理由は更に謎へと包まれてしまう。
「……え? じゃあ何で抱きついてきたんだ?」
「そ、その、えっとね? す、すごく言いづらいんだけど……。昨日自分の父親の話でショックを受けたときに颯一君に抱きしめてもらったでしょ? それでね、その時すごく気持ちが落ち着いて、温かくなって、だからその、もう一回抱きつきたいっていう衝動が抑えられなくて……」
真白が話した内容は到底信じられる内容ではなく、俺は気の抜けた声を出していた。
「……へ?」
「ちゃ、ちゃんと我慢しようとしたんだよ⁉︎ 急に抱きつきたいなんて言ったら颯一君びっくりするだろうし、もしかしたら嫌われちゃうかなった思ったから。抱きつきたいな、でも迷惑だよね、でも抱きつきたいな、でも嫌われちゃうよね、でも抱きつきたい! ってずーっと頭の中でそのことがグルグル回ってて、頭の中が大変なことになってたから体育倉庫に来てもらったの」
大変なこととはそういうことだったのか。
身内に不幸があったとか、体に異常をきたしたとか、そんなことだと思っていたのだが、大変なことのベクトルが全く違ったらしい。
いや、冷静なフリをしてそんなことを考えてはいるが、俺に抱きついて安心して、温かさを感じて、また抱きつきたいと思ってくれているってどういうことだよそれ。
かなり好感度高くないとあり得なくないか?
「な、なるほどな……。まあ何かショックな出来事があったとかじゃなくてよかったよ」
「心配させてごめんね。ずっと我慢しててまだまだ気が済まないから、もう少し抱きつかせてもらっても良い?」
「も、もちろんそりゃ構わないけど……。
こうして俺に突然やったきたフィーバータイムは、もう少し継続することとなった。
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