第68話 神からの試練
俺は真白よりも先に体育倉庫へ到着しており、数分後に真白がやってきた。
体育倉庫に閉じ込められてしまった事件は記憶に新しく、また同じ事件を起こしてしまわないよう扉は開けたままで話をしたかったが『大変なこと』について話すには扉を閉めておいたほうがいいだろうと扉を閉めた。
「ご、ごめんね。急に呼び出しちゃったりして」
「それは全然構わないんだけど『大変なこと』って何があったんだ? まさか父嫌の件で琥珀さんから何か新しい情報でも聞いたのか?」
「そ、そういうことじゃなくてね? えっと、事件ではないというか、とにかく心配するようなことではないんだけど……」
真白は動揺しており『大変なこと』がなんなのか上手く話せない様子だ。
心配するようなことではないとだけ教えてくれたので、急を要するような事件が起きたわけではないのだろう。
何が怒ったのかは後で聞くとして、まずは真白に落ち着いてもらわなければならない。
そう考えた俺は即座に行動に出た。
「ひゃっ--⁉︎」
「ゆっくりでいいから。昼からの授業始まるまでまだ時間もあるしな。焦らなくて大丈夫だ」
そう言いながら、俺は真白の手を両手で包み込んだ。
真白の手は恐怖に怯える子供のように震えている。
父親が亡くなっていた事実を乗り越えたわけではないにしろ、まずは受け止めて乗り越えようとしている真白に更なる試練を与えるだなんて神様も意地が悪い。飴と鞭を上手く使えないようでは神様だ。
それにしたってなぜ真白ばかりに試練が訪れるのだろうか。
世の中俺みたいに特に試練がやってくることもなく生活している人間だっているというのに。
俺は亜蘭という太陽の影に隠れているだけで平穏な日々が送れており、試練という試練を乗り越えたことはない。
そりゃそんな人生を心の底から楽しいとは思えないが、真白のように試練ばかりで苦労する人生を経験してきていない。
あぁ……。特に試練もなく苦しみを抱えていない俺が真白の苦しみを代わりに背負ってやることができるのなら、二つ返事で背負うと言うのに……。
人々全員に平等に試練を与えてくださいよ神様。
「ゆ、ゆっくりって言われてもね? その、私ね? 必死に我慢してたからゆっくりなんてできなさそう」
ゆっくりできなさそうと言うのなら、動揺せず出会ってすぐに『大変なこと』について話せばよかったのでは? なんて思いながら真白に返事をする。
「え、ゆっくりできないってどういう--」
「ごめんっ! もう無理!」
「フォブゥッ⁉︎」
真白が何を言っているのかを理解するよりも先に、真白は俺に抱きついてきた。
え、神様、俺今『平等に試練を与えてくださ』って言いましたよね?
『真白の苦しみを代わりに背負ってやることができるのなら、二つ返事で背負うと言う』って言いましたよね?
なんで真逆のことしてくるんですか神様ァァァァ!
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