第54話 次の作戦

 王子と姫路の関係を修復するための作戦は失敗に終わってしまった。

 ついでに俺と天川の関係性まで終わるところだったのは、もう思い出したくもない話だが……。


 とはいえ、ここでもう諦めますと簡単に任務を放棄していいわけがない。

 俺たちは体育倉庫の事件から一週間昼休みや放課後に四人で集まり、王子と姫路の関係を修復するため作戦を考えていた。


 俺はその間、今まで通り天川と話しできるだけ気まずくならないよう努めていた。


 恐らくは天川もできるだけ気まずくならないよう努めてくれてはいたが、明らかに俺と視線を合わせようとしてくれなかったのはショックではあった。


 とはいえ、天川が俺と一緒の空間で作戦を考えたりしてくれていたということは、同じ空間にいたくないというレベルで嫌いになられてはいないということだろうと、前向きに考えながら作戦を考えていた。


 そして俺たちは、新たな作戦を考えついた。


 その作戦を実行するべく、俺は亜蘭と二人で王子を別棟にある理科室へと呼び出していた。


「なんなのかな急に呼び出して。僕は相手をしなければならない女性がたくさんいるからこんなところで暇を潰している時間なんてのはないんだが」


 相変わらず王子は女の子に声をかけるのをやめる気はないらしい。


「……じゃあ色々と質問していくから答えてくれよ」

「なんなんだよまったく……」


 王子は自分のペースに持ち込んで上手いこと俺たちから逃れようとしていたが、そうはさせないと王子に質問をぶつけた。


「王子は今姫路のことどう思ってる?」

「どう思ってるも何ももう眼中にもないさ。あんな人の気持ちもわからないクソ女とはもう関わりたくないからね」


 王子は相変わらず姫路に対しての怒りを隠しきれていない。


 だがこれでいい。


 俺たちの目的は王子に本音を言わせること。


 俺たちは王子に自分の正直な気持ちを自ら言わせようと、さらに質問をしていく。


「王子ってさ、中学時代に姫路に花束を渡したんだろ?」

「な、なんでそれを⁉︎」

「あれってさ、告白のつもりだったんだよな?」

「なっ、なっ、こ、告白なわけっ……」

「王子からしてみればさ、一世一代の告白だったってのに、姫路から『私に花束を贈るなんて100万年早いけどね』って言われたで傷ついたんだよな」

「っ……」


 俺からの容赦ない質問の数々に、王子は言葉を発しなくなってしまった。


 俺たちの作戦が完了するまでは後少しだ。


「その話だけ聞いたら正直王子に同情するよ。そりゃショックだよな。勇気を振り絞った告白をあんな態度で拒否されたら」

「……」

「でもさ、今のお前がやってることは絶対に違うよ」

「……」

「まだ好きなんだろ? 姫路のこと」

「……」


 俺からの質問に答えることなく、しばらく黙り込んでいた王子は渋々と言った感じで話し始めた。


「好きじゃなかったら好き好んで他の女の子に告白なんてしないだろ」


 王子は俺たちの作戦通り、自ら自分の本音を曝け出したのだ。


 理科室の外に、姫路が潜んでいるとも知らず。

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