第53話 かなりの効果

「実は--」


 午後の授業が終わり放課後を迎え、俺は亜蘭と三折にファミレスに連れてこられていた。


 ファミレスに連れてこられたのは、体育倉庫で何があったのかを問い詰められるためだ。


 少なくとも亜蘭と三折には天川が体育倉庫から飛び出していく瞬間を見られているので、変な嘘をつくことはできない。


 嘘をついて保身をしたところで何もいいことはないし、俺は体育倉庫で起こったこと全てを二人に話した。


 一応亜蘭がいるので、天川が男子に苦手意識を持っていることは伏せて話をしている。


「そんな漫画みたいな展開本当にあるんだな」

「俺もびっくりしてるよ……。できれば夢であってほしい」

「あーあ。嫌われたねそれは確実に。こうなったらもう絶対無理だよ。きっともうシロシロは窪っちのこと、目をギラギラと光らせた肉食獣にしか見えてないだろうね。近づくのも厳しいよ。人間やめた方がいいレベル」


 三折からの容赦ない罵倒に心が折れそうになる。


 とはいえ、三折がそう言いたくなるのも理解はできる。


 自分の親友がようやく男子に対する苦手意識を克服できるかもしれないというチャンスを得たのに、俺はそのチャンスを台無しにしたのだから。


 天川だけでなく、三折からも嫌われたって何もおかしくはない。


「ちょっ、自分でも最低なことしたって自覚はあるけど、流石にそこまで言われると傷つく--」

「ってのは全部嘘でぇ、かなり効果あったんじゃないそれ」

「……へ? 効果がある?」

「そっ。窪っちのこと、かなり意識したと思うよ」


 三折は天川が男子に苦手意識を持っているのを知っているはず。


 となれば、今の話を聞いて『効果があった、意識した』なんてことは言わないはずだ。


 まさか三折も天川が男子に苦手意識を持っていることを知らないのか?


 いや、流石にそんなことはないと思うんだが……。


「なっ、なんであれで俺のこと意識するようになるんだよ。普通逆だろ。事故であっても好きじゃない男とキスなんて--」

「好きな男の子だったら?」

「……へ?」

「シロシロの好きな男の子が、窪っちだったら? 嫌どころかむしろ嬉しいんじゃない?」

「そ、それはたらればすぎるだろ。天川が俺のことを好きだなんて--」

「言い切れなくもないんじゃない?」


 三折にそう問い詰められた俺は、これまでの天川と俺の関係性を振り返った。


 地味で冴えない亜蘭の陰に隠れているだけの俺みたいな男を、天川が好きにるとは考えづらい。


 しかし、天川は男子に苦手意思を持っていて、無害な俺に興味を持っていたのは事実ではある。


 となれば俺を恋愛対象として見ている可能性が、限りなくゼロに近いのかもしれないが、ゼロだとは言い切れない。


「ま、まあ確かに」

「俺も天川は絶対颯一のこと気にしてると思うからなー。まだ終わっちゃいないと思うぜ」


 俺と天川の関係はまだ終わっていないのか?


 確信はないが、そう思い込んでいたほうが前向きでいられるというは事実ではある。


「……とりあえず諦めず頑張ってみるよ」

「おうっ。なんかあったらなんでも相談しろよな」


 女がらみの時だけは、亜蘭をやたら心強く感じられるので色々と相談することにしよう。


「……それで、王子と姫路はどうする?」

「「あっ--」」


 俺も含めて、この場にいた三人全員が王子と姫路のことを忘れ去っていた。

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