第51話 不可抗力
体育倉庫の中で天川を押し倒してしまった俺は、どうすることもできずただ冷や汗をかいていた。
せっかく天川から無害な男子認定されているというのに、俺が意図的に天川を押し倒したと思われてしまえば、ようやく構築され始めた天川との関係が一気に崩れ去ってしまう。
できれば早く天川の上から移動したいのだが……。
「ご、ごめん。ちょっと力が抜けちゃって」
「だ、大丈夫だよ? あ、で、でもその、早めにどいてくれると嬉しいかもだけど……」
「……ごめん。もうちょっと待ってくれる? 今ちょっと力が入らなくて……」
俺だって天川に言われる前から、一目散に天川の上から移動しようと思った。
そうしなければ、俺という人間を嫌いになってしまうだけでなく、天川の男性に対する苦手意識を増幅させてしまう可能性もある。
そんな俺の気持ちとは裏腹に、体は言うことを聞いてくれない。
どれだけ力を入れようとしても力が入らず、体が動かないのだ。
「う、うん。焦らなくても大丈夫だから」
「あ、ありがと」
そう言う天川は目を泳がせ、明らかに大丈夫ではない様子。
そんな姿を見せられてしまえば、焦らなくてもいいと言われたって焦らずにはいられない。
男の俺に急に乗りかかられて恐怖を感じているはずなのに、焦らなくてもいいと言ってくれる優しすぎる天川のために、早く天川の上から移動しなければならない。
というかそれ以前に、四つん這いの体勢を維持する力すらもう残っておらず、今にも天川に抱きついてしまいそうなのである。
このままの状態では、俺の体力が回復するよりも先に体力が底をつき、天川に抱きつく形になってしまう。
そうなる前に、最後の力を一瞬に込めて、一気に天川の上から移動するしかない。
一か八かの賭けではあるが、このまま何もせず力が底をつきて天川に抱きついてしまうよりは、なにかしら行動を起こしたほうが天川も誠意を感じてくれるはず。
「……大丈夫? なんか腕プルプルしてない?」
「そ、そうなんだよなぁ……。ちょっともう力が底をつきそうで……」
「えっ、大丈夫⁉︎」
「あ、ああ。大丈夫。今からどくから。……失敗したらごめん」
「……え? そ、颯一君⁉︎ 何をするつもりなの⁉︎ 失敗したらどうなるの⁉︎」
「……よし、行くぞっ」
「颯一君⁉︎ 颯一くーん⁉︎」
今から俺が何をしようとして、失敗したらどうなるのかを気にしている天川だが、もう俺にはそんなことを説明している時間は残されていない。
天川には悪いが、俺は天川に了承を得ることなく一瞬に力を込めた。
「せーのっ‼︎ っと⁉︎」
「きゃっ⁉︎」
次の瞬間、俺と天川の唇は触れ合っていた。
……あ、これ終わったな。
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