第40話 喧嘩の行方

「さいってい!」


 王子を引っ叩いた姫路はそう言い放ち、教室を飛び出していった。


「え、痛っ……」

「……うん。今のは王子んが悪いよ」

「姫路さんが可哀想」


 三折と天川が同性である姫路の味方をするのは当然のこと。

 というか今のは男子から見ても間違いなく王子が悪いからな。


 どんな事情があったとしても、女の子に対してゴリラと言い放つのはやめておくべきだ。


「そ、そんなことよりマドモアゼル、僕と真剣にお付き合いを--」

「少しは状況を考えろバカ」

「痛っ⁉︎」


 流石の俺も、あまりに常識はずれな行動をとる王子の頭を平手で叩いた。

 本当は拳で行きたかったが、拳で行くと何かと問題がありそうなのでやめておいた。


「お、中々やるね窪っち」

「まあ今のは流石にな」

「マ、マドモアゼル、僕と--痛っ⁉︎」


 俺に叩かれても懲りない王子を、亜蘭が俺よりも強く叩いた。


 きっと亜蘭も本当は拳でいきたかったところをグッと堪えたのだろう。


「なんだよ! みんなして僕のことパンパンパンパン叩いて! 僕だって好きで女の子に声かけてるんじゃないんだぞ!」

「……?」


『好きで女の子に声かけてるんじゃない』という言葉に、この場の全員が疑問符を浮かべた。


 亜蘭と同じく女たらしの王子ではあるが、女の子が大好きでたまらなくて女の子に声をかけまくっている亜蘭とは違って、本当は女の子に声をかけたいわけじゃない?


 いや、声をかけたくもないのに声をかける理由がわからないんだが。

 それなら声をかけなければいいだけの話しだからな。


「いや、じゃあそれ声かけなければいいだけだろ。女の子に対して失礼じゃねぇか」


 みんなの疑問を亜蘭が直接王子にぶつけた。


 まあ亜蘭の言葉には違和感しかないけどな。


 どれだけ誠意を持って関わっていたとしても、複数の女の子をはべらかしているのは失礼だし。


 とはいえ、女の子に対して失礼であることに変わりはない。


「そういうわけにもいかないんだよ。僕には僕の事情があるんだから」

「なんだよ僕の事情って」

「ふんっ。なんでもいいだろそんなの。もう僕は自分の教室に戻る」

「あ、おい、ちょっと」


 叩かれすぎて嫌になったのか、姫路に続いて王子まで教室を出ていってしまい、残された俺たちは顔を見合わせ、呆然としてしまう。


「え、マジで今俺たち何見せられたんだよこれ」

「ちょっと何が何だかって感じだね」

「何かしらありそうなのは間違いなさそうだけど」


 王子が天川を諦めてくれたのはよかったのだが、俺たちの中には微妙な空気が漂っている。



「……ねぇ、姫路さんに王子君との話聞きに行かない?」


 そう言い出したのは、王子に言い寄られて一番迷惑していたであろう天川だった。

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