第39話 姫路と王子の関係

「まった女の子に声かけて、ほんっとに懲りないんだから」

「どうしても声をかけたくなるほど素敵な女性がいたんだから仕方がないじゃないか」


 『どうしても声をかけたくなる女性』というのが一人だけなら違和感を感じることはないが、女たらしで有名な王子は複数の女性に声をかけているはず。


 こうして姫路に呆れられるのは当たり前である。


「そんな素敵な女性ならずっとあんたの横にいるでしょうが!」

「ふげっ⁉︎」


 王子には幼馴染の女子生徒がいて、その女子生徒が王子の行動にブレーキをかけているという話は聞いたことがある。

 そのブレーキをかけている女子生徒というのが、どうやら姫路らしい。


 王子は思いっきり背中を叩かれ、情けない声をあげた。


 先ほどは天川から容赦ない言葉を浴びせられている姿を見て同情していたが、しかるべき罰は受けなければならない。


 それだけ相手に迷惑をかけているんだからな。


 王子に亜蘭のような信念があるのかどうかはわからないが、複数の女子生徒に言い寄るのは信念があったとしても不誠実で褒められたものではないからな。


「もう……。何回言えばわかるのよ」

「え? 素敵な女性ってまさか君のことかい? 僕にはゴリラにしか……ぐふぁっ⁉︎」


 ……うん、今のも完全に王子が悪いな。


 自分のことを自分で素敵な女性と言う姫路も姫路だとは思うが、ゴリラは流石にまずいだろう。


 てかなんで俺たち急に別のクラスで関わりがないやつらの夫婦漫才を見せられてるんだろ。

 いや、まあ俺が王子をどうにかする必要がなさそうなのは安心なんだけどさ。


「幼馴染のことゴリラ呼ばわりとか最低っ。こんなに可愛い幼馴染がいるのをもっと感謝しなさいよね!」

「それをいうなら君だって感謝するべきだと思うけどね。僕みたいなイケメンが幼馴染だってことなさ」

「ふんっ。アンタみたいな女癖の悪いクズ男、好きになるわけないでしょ」


 姫路の言うことはもっともだ。


 俺が女だったとしても、亜蘭や王子のように複数の女性をはべらかしている男のことは好きにならないだろう。


 しかし、その言葉を聞いた瞬間、王子の表情が変わった。


「……ああそうか。こちらも君みたいな魅力一つない女性を好きになる気なんて一切ないから早くどこかに行ってくれないかな」

「あ、あのー、お二人さん? 急にやってきてヒートアップされましても私たちとしてはどうすれば良いか……」


 この混沌とした状況をどうにかしようと口を挟んだ三折だったが、三折が仲介に入ろうとした次の瞬間、パンッという乾いた音が教室中に響き渡った。


 王子の言葉を聞いて頭に血が上った姫路が、王子の頬を思いっきり引っ叩いたのだ。

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