第38話 容赦ない言葉

 空気を読まずに俺たちの会話に乱入してきた王子公陽。


 王子は俺たちとは別のクラスなので関わることはなかったが、天川目当てで俺たちのクラスまでやってきたようだ。


 王子と亜蘭が同じクラスだったらとんでもないことになってたんじゃないだろうか……。


「え、えっと、その……」

「うんうん、答えに悩むのもわかるよ。僕がかっこよすぎて答えに困ってるんだよね。でも答えは急いでないから、ゆーっくり考えてから答えを聞かせてもらえればそれで--」

「どちらさまですか?」

「……え?」


 天川の一言に驚いた様子の王子だが、驚いたのは王子だけではない。


 この場にいた全員が驚いた表情を見せた。


 普通は同じ学年の生徒であれば顔と名前くらいは知っているものだが、天川は男子の関わりをできるだけ持たないようにしているし、王子のことは知らなかったのだろう。


 天川が王子に最大のフルカウンターを喰らわす瞬間を目の当たりにした俺たちは、顔を見合わせて込み上げてくる笑いを堪えるのに必死だった。


 三折に関してはちょっと笑い漏れてるし。


「す、すみません。私、人を覚えるのが苦手で……。王子って苗字だしどこかの王様の末裔とかなのかな?」


 流石に王の末裔ってことはないだろ。


 というか、顔も名前も知らない相手に対して急に末裔の話しをするなんて明らかにおかしい。


 何組かとか、何部なのかとか、そんな質問をするのが普通だろう。


 やはり天川の天然っぷりは、苦手としている男子と会話している時に発揮されるようだ。


 いや、でも本当に王の末裔だったり……。


 ダメだ、天川の天然さにあてられて、俺まで王子という苗字の由来が気になってきた。


「は、ははーん。そういうことか。あえて僕のことを知らないと言うことで、自分に気を引かせようとしているんだな。それなら安心してくれ。もう僕の心は君にだけ向けられて--」

「え、違います」

「ち、ちがっ……」


 ……いやこれ、俺が亜蘭のことなんとかしなくても天川一人でなんとかできたんじゃねぇか?


 俺が考えた作戦よりも、天川が直接今みたいに無意識に冷たい態度をとるほうがよっぽど効果的な気がする。


 ……なんて思ったりもしたが、まあ男子が苦手な天川を亜蘭と無理に関わらせるわけにはいかないしな。


 というか、絶対王子の心は天川だけに向けられているわけではないだろ。


 女たらしで有名なんだし。


「で、でも流石に顔と名前くらいは知って--」

「ごめんなさい。本当に知らないです」


 天川は無意識に容赦ない言葉を王子に浴びせていく。


 ちょっと王子が可哀想に見えてきたな。


 さて、この状況、どう収集をつけるべきか……。


「こーらー! 公陽ー!」


 この状況を憂いていると、王子に続いて一人の女子生徒が俺たちの元へ走ってきた。


 俺たちの元へと走ってきたのは、王子と同じクラスの姫路月見ひめじつきみだった。

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