第36話 やり方
天川に亜蘭を関わらせないようにすると約束した俺は、天川の家から帰宅してからずっと、どのようにして亜蘭を天川に関わらせないようにするかを考えていた。
天川が男子に苦手意識を持っていることを伝えずに、亜蘭を天川に関わらせないようにするのは至難の業だ。
しかも、俺と亜蘭の間では天川を巡ったバトルを開始したばかりということもあり、亜蘭を天川に関わらせないようにするのは不可能に近いかもしれない。
それでも、約束をしたからには『やっぱり無理でした』とすぐに諦めては男が廃る。
寝ずに天川から亜蘭を遠ざける方法を考えた俺は、なんとか一つの解決方法を捻り出すことに成功した。
そして月曜日、学校に出てきた俺は亜蘭から声をかけられた。
「おい、どうだったんだよ。焼き鳥屋に行った結果は」
「結局焼き鳥屋は行かずに天川の家に行った」
「--は⁉︎ なんだよそれ⁉︎」
驚くのも無理はない。
前回は焼き鳥に行くはずが俺の家に来ることになり、今回は焼き鳥に行くはずが天川の家に行くことになったのだから。
恋愛バトルを繰り広げている相手が、狙っている女の子の家に行ったとなれば、驚くのが普通である。
「なんだよそれって言われてもそのままの意味だよ」
「いやだから、なんでそんなことになったんだよって」
「焼き鳥屋が臨時休業だったんだよ。別にズルして天川の家に行ったわけじゃないからな」
「なんだよそれ、俺だいぶお前に差広げられてるじゃねぇか」
亜蘭のいう通り、恋愛バトルは現状俺の方が数歩程度リードしているかもしれない。
とはいえ、俺の実力で亜蘭との差を広げられたとは1ミリも思っていない。
ただ、男子が苦手な天川にとって、女の敵でもある亜蘭と、無害な俺とでは、偶然俺のほうが接っしやすいというだけなのだ。
俺がリードをしている恋愛バトルではあるが、天川のために、このバトルは俺の手で終わらせなければならない。
そして俺は、考えに考え抜いてたどり着いた作戦を開始することにした。
「……あのさ、俺天川の家で天川に告白したんだわ」
「……は⁉︎ 告白⁉︎」
「ちょっ⁉︎ 声がでかいって!」
「あ、ご、ごめん。でも告白なんて言われたら驚くのも無理はねぇだろ」
俺が考えた作戦、それは、『天川に告白した』と嘘をつくことだった。
俺に先攻を譲ってくれるなど背中を押してくれている亜蘭には頭が上がらないし、できることならこんな嘘はつきたくなかった。
しかし、天川が男子に対して苦手意識を持っているという事実を伝えずに亜蘭を止めるとなると、これしか俺には方法が思い浮かばなかったのだ。
それに、まずは天川が平穏な生活を送れることが最優先である。
「まあ急すぎるしな」
「それで、結果はどうだったんだよ」
「……成功はしてないけど、失敗もしてないって感じかな」
「は? なんだそれ」
「天川と俺ってこれまで全く関わりがなかっただろ? だから俺のこと全く知らないから、まず友達から始めて俺のことを知りたいって言われた」
「お、おお……。なるほどな。そりゃ確かに成功もしてないし失敗もしてないわ」
「それで、お願いがあるんだけど……。俺が返事をもらうまで、一時休戦ってことにはできないか? 俺にとっては人生で初めてのチャンスだし、ここまできたらモノにしたいんだ」
俺の作戦は、まずは俺が天川に告白したと亜蘭に嘘をつき、それを訊いた亜蘭に、告白の返事をもらえるまでは一時休戦にしないかと伝えることで、天川に関わらせないようにするというもの。
かなり無理矢理な発想なので、もしかしたら断られるかもしれないけど……。
「……正直悩みどころだな」
「ま、まあそうだよな。…‥でも頼む。俺、変わりたいんだよ」
「……分かった。そこまでいうなら天川のことはもう狙わない。素直に応援するわ」
「亜蘭……」
こうして俺は、亜蘭を天川から遠ざけることに成功した。
俺が最後にダメ押しで放った『変わりたいんだよ』という言葉。
言う前はただ亜蘭を納得させるためなと思っていたものの、発言してみると思いの外気持ちが乗っていた。
もしかしたら、俺は心のどこかで亜蘭に引っ付いているだけの自分から『変わりたい』と思っているのかもしれない。
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