第35話 なんとかする
俺と亜蘭は天川を巡って勝手に勝負を始めていたが、天川からしてみれば俺たちの勝負の始まりは、地獄の始まりと言っても過言ではない。
いや、まあ勝負を始める前から亜蘭は天川に声をかけに行っていたので、勝負を始める前から地獄は始まっていたんだけども。
「……本当すまん。友達として謝らせてもらう」
「い、いいのいいの。国平君だって悪気があってやってるわけじゃないのはもちろん理解してるから。でも、なんとかしたいなーとは思ってるんだけど……」
亜蘭はいつも女の子たちにやっているように、特に深くは考えずに天川にアタックしている。
亜蘭に悪気はないし、声をかけるだけなら普通に考えれば悪いことではないからな。
しかし、天川からしてみればそれが『学校に来れなくなるかもしれない』という由々しき問題を引き起こしているのだから、亜蘭をこのままにしておくわけには行かない。
「確認させてもらいたいんだが、天川的には亜蘭に『天川が男子に苦手意識を持ってる』って知られたとしても、亜蘭には関わらないようにしてほしいと思ってるか?」
「……できればそれを知られずにグイグイこられなくなるといいんだけど」
天川が男子に対して苦手意識を持っていることを亜蘭に話せば、亜蘭は素直に手を引いてくれるだろう。
なぜわかるのかと思うかもしれないが、亜蘭はそういうやつなのだ。
しかし、俺が亜蘭にそのことを話せば、天川は亜蘭がそのことを他の誰かに言いふらす危険性があるのではないかと考えてしまうはずだ。
俺は亜蘭のことをよく知っているし、そんなことはしないやつだと知っているから気にならないが、天川からしてみればそうはいかない。
もし亜蘭から天川の男子に対する苦手意識のことが学校中に広まってしまったとしたら、それこそ天川は学校に来れなくなってしまうかもしれない。
だから、亜蘭に直接天川が男子に苦手意識を持っていることは話すわけにはいかない。
「それを伝えずに亜蘭を天川に関わらないようにさせるのは結構難しいと思う。それでもいいか?」
「……え、今もしかして窪田君、私のために国平君を私から遠ざけようとしてくれてるの?」
「え、そうだけど。迷惑だったか?」
天川は目を見開き驚いた様子でそう訊いてきた。
天川のためにと思って亜蘭を天川に近づかないようにしようと思っていたのだが、迷惑だっただろうか。
「迷惑だなんてそんなことあるはずないよ。窪田君が亜蘭君をどうにかしてくれるっていうなら心強すぎるけど……」
俺のような誰からも頼りにされていない人間のことを、心強いと言ってくれる天川に手を差し伸べないわけにはいかないだろう。
自分を必要としてくれた同級生の女の子の力になれないとなれば、本格的に俺の存在価値は無くなってしまう。
「よし。わかった。じゃあ亜蘭のことは俺に任せといてくれ」
未だ策はないが、俺は亜蘭を天川から遠ざけることを決意し、その後もしばらく雑談をしてから天川の家から帰宅した。
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