第33話 秘密
「本当美味かったわ」
「喜んでもらえてよかった」
天川が作ってくれた焼き鳥は素朴な味で、印象に残るような味ではなかったが、何よりも天川が俺のために作ってくれたという事実が嬉しかった。
もしも天川の手料理を毎日食べられる人生を送れるとしたら!どれ程幸せなのだろう。
となると、俺の目標は天川と付き合うことではなく、結婚することになりそうだ。
まっ、無理だろうけど。
「これがお店だったら間違いなくリピ確定だな」
「そんなに美味しかった? それなら何回でも食べにきてよ。お母さん、今日みたいに帰ってくるの遅い日が多いし、私的にはいつきてもらっても大歓迎だから」
……え、それって俺にとって最高の発言すぎないか?
天川が俺の家に来た時は、帰り際に『また行こうね、焼き鳥』と言ってくれた。
そう言ってくれたのは嬉しかったが、それは次回の確約をしてくれたというだけで、その次や、さらにその次がある事は示唆していない。
しかし、今回の発言は次回の確約どころか、この先ずっと天川と関係を持っていけることを意味する発言だった。
いやこれ確変突入確定じゃねぇか。
「……じゃあまたお邪魔させてもらおうかな」
飛び跳ねて喜びたい程嬉しい発言ではあったが、天川に引かれないように喜びを抑えて返答した。
「うん。いつでもきてね。それにしてもまさか私が男の子を家に呼ぶなんて思わなかったよ。まだ一回も男の子を家に呼んだことないから」
「え、一回も?」
「うん。一回も」
天川が男子を苦手としているのはなんとなく察していたが、今の発言で天川が男子を苦手としているのは事実だと判明した。
それなら、なぜ俺のことは家に連れてきてくれたのだろうか。
俺だって男子なんだけどな。
え、もしかして男として見られていない説浮上しちゃった?
いや、まだ他の男子生徒とは違って俺のことを信頼してくれているという可能性も残っている。
とはいえ、俺と天川が初めて会話をしたのは亜蘭と映画を見ようと誘いに行った時だ。
まだ関わり始めてからの時間も短いし、俺を信頼してくれて家に呼んでくれるだけの理由なんてないような気がするんだが。
というか、天川はなぜ男子が苦手になったのだろう。
やはり母親のことが関係しているのか?
「なんで男子を呼んだことがないんだ?」
「さっきはね、お母さんが男の人と遊びに行ってるの、気にしないなんて言ってたけど、やっぱり気にはしてるの。ようやく良い男の人を見つけたみたいで仲良くやってるけど、それまでは結構クズなひともいてね、それで私、男の人に対して苦手意識がついちゃって」
母親が連れてくる男が原因で、男子のことが苦手になっていると聞いた俺は、天川の母親に腹が立った。
天川の母親がなぜ天川の父親と離婚したのかは知らないし、天川の母親にだって幸せになる権利はある。
でも娘に悪影響を及ぼすのは絶対にダメだろ。
母親として、娘を第一に考えて行動するべきだ。
……てか天川が母親の男グセが理由で男子に苦手意識があるとなると、三折が俺のことを応援してくれている理由もわかる気がしてくるな。
自分でいうのもあれだが、亜蘭みたいにイケメンだったりとか、特技はなにもないけど、無害ではあるからな俺って。
男子生徒に苦手意識がある天川にはもってこいの男子なのだろう。
「……そういうことだったのか」
「うん。でもね? 窪田君には他の男の人に感じる苦手意識を感じなかったの」
「え、それはなんで?」
「うーん……。なんでだろ。ずっと見てたからかな。窪田君のこと」
「……え?」
天川の発言を聞いた俺は、なぜ天川がずっと俺のことを見ていたのかという疑問よりも先に、見られてまずい行動をしていなかったかを思い返していた。
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