第31話 手料理1

 天川から『付き合ったことがあるか』について問われた俺は、その質問に対する回答よりも、その質問をしてきた意図について考えていた。


 俺の恋愛事情が気になるということは、そういうことなのか? そういうことだと思っていいのか?


 いや、流石に学校1の美少女で有名なあの天川が、俺に対して好意を持ってくれているとは思いづらい。


 とはいえ、多少気になっているとか、それくらいならあり得てもおかしくはないのではないだろうか。


 安心してくれ天川、俺は彼女いない歴年齢だし、そもそも会話すらままならない程女の子との関わりなんて無い!


「1回も付き合ったことないよ。恋愛とかあんまり興味なかったし」

「そ、そうなんだ……」


 ん? なぜか天川の反応が微妙なような……。


 待てよ?


 俺は今、自信満々に『付き合ったことはない』と言ったが、女の子からしてみれば、女の子慣れしていない俺のような男より、亜蘭とまでは行かないまでも、多少女性経験がある男のほうが良いって思われるんじゃないか⁉︎


 しかも、調子乗って『恋愛には興味ない』とか言っちまったけど、仮に天川が俺のことを気になっているのだとしたら、最悪の回答をしてしまったんじゃないか⁉︎


 『自分の好きな人が、付き合ったこともなくて恋愛に興味がない』というのは、嬉しくもあるだろうが、ショックを受けてしまう返答でもあるはずだ。


「あ、いや、でも別に? 付き合ったことはないけど亜蘭とずっと一緒にいるから、こうしたら女の子が喜ぶとかはわかってるし、俺も付き合ってみたいなーって思ったりはしてるけど」


 あーやってるわ俺、急いで自分の発言を取り繕おうとしたら、ただの気持ち悪いやつになってるわ。


 何が『こうしたら女の子が喜ぶとかはわかってる』だよ。自分の発言に反吐が出そうだ。


「……じゃあどうしたら私を喜ばせられると思う?」


 ……とんでもない反撃が飛んできてしまった。


 『こうしたら女の子が喜ぶとかはわかってる』なんて言ったけど、ただ亜蘭が女の子を喜ばせるためにしている行動をそばで見てきただけであって、女の子の気持ちなんて全くわからないし、何をしたら喜ぶなんて人によっても違うだろう。


 なので、亜蘭がしていることを今そのまま言うのは正しい回答ではないはず。


 こうなったら、俺自身で今、最高の答えを導き出すしかない。

 どうしたら天川が喜ぶのか、天川は俺にさ何をされたら嬉しいのか。


 亜蘭は知り合ってままない女の子に対してでもすぐ手を繋いだり、キスをしたりするみたいだが、天川はそういうのが得意ではなさそうだ。


 それこそ、いくら気にしていないとはいえ、『両親が離婚して母親が別の男と遊んでいる』という状況をから察するに、きっと男の人に対して良いイメージは持っていないような気がする。


 改めて考えてみると、学校でも天川が男子と話しているところは目にした記憶がない。


 男子からの人気はNo.1で、男子が得意ではない天川が喜ぶこと……。


「……料理を振る舞うとか」

「え、手料理?」

「え、う、うん」


 え、何その反応。


 これもしかして、完全に間違えた回答してしまったんじゃないか?


「……ふふふっ。はははっ! まさか手料理が出てくるとは思わなかったな。そんな回答するの窪田君くらいじゃない?」

「え、いや、だって、なんか普通に嬉しいかなって」

「普通逆じゃない? 女の人が男の人に手料理振る舞うならわかるけどさ」

「ま、まあそれは間違いないけど」

「……ごめん、ちょっと待っててね」

「え、天川?」


 天川は俺が間違った返答をしたせいか、急に部屋を出ていってしまった。


 うーん……。完全に回答を誤ってしまったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る