第30話 天川の家

 目当ての焼き鳥屋が臨時休業で、次の焼き鳥屋を探そうとしたところ、俺は天川の家に誘われた。


 冗談でも言っているのではないかと思ったが、天川は至って真剣な表情をしており、俺は今、天川の家の天川の部屋にいる。


 今からどうすればいいのか、何を話せばいいのかは全くわからないが、とにかくできるだけキョロキョロしないように一点だけを見つめていた。


 あまり見渡すと気持ち悪いと思われかねないからな。


 というか正直な話、別の焼き鳥屋でも良くなかったか?


 2度もまともに焼き鳥を食べれなかったからという理由で、その焼き鳥屋に固執する理由もわからなくはないが、その代わりとしてわざわざ自分の家に俺を呼んだ理由は何かあるのだろうか。


「今日ご両親は?」

「あ、窪田君は知らないよね。私の両親さ、私が小さい頃に離婚してて、今はお母さんしかいないの。そのお母さんも今日は男の人と出かけてるから家にいないから、気楽にしててね」


 あーうん、情報量が多すぎるが、とにかく訊いたらいけないことを訊いてしまったのは間違いないようだ。


 両親が離婚していることに関しても、お母さんが男の人と出かけているということに関しても、衝撃すぎて言葉が出ない。


 両親が離婚していて、自分の母親が父親ではない別の男と遊びに行ってる、ってどんな気持ちなんだろうな。

 俺だったら若干母親のことが嫌いになってしまいそうだが。


 とにかく両親が離婚していて、母親は男と遊びに行っているという2つの事実が衝撃的すぎて、人には明かしづらい部分を、俺になんの躊躇もなく明かしてくれたという喜びはかき消されてしまった。


「そ、そうなのか……。ごめん。嫌なこと答えさせて」

「いいのいいのっ。人に話すとみんな気を遣ってくれるんだけど、私自身は意外と気にしてないから。お父さんの顔だってもう記憶にはないくらいだしね」

「……それならいいんだけど」

「この話するとみんなに気を遣わせちゃうからさ、あんまり人に話したりしないんだけど、窪田君にはなんでか話しちゃった」


 ……え、それって『みんなには話したくないことだけど俺になら話してもいいと思った』ってことだよな?


 それは間違いなく、天川が俺のことをただの同級生というだけではなく、若干は特別視してくれている証拠だ。


「俺みたいな人間に気なんて遣わなくていいよ。もちろんその話を誰かに言いふらしたりもしないし、気楽になんでも話してくれ」

「別に言いふらされたりしたくないってわけでもないんだけどね。でも私、窪田君がこの話を誰かに言いふらすなんて心配全くしてなかったな」


 なんで天川は俺に対して絶大な信頼を寄せてくれ

てるんだよ。


 俺そんなに信頼されるようなことした記憶ないんだが。


「気をつけろよ。言いふらす奴はなんの躊躇もなく言いふらすからな」

「そうだよね。気をつける」

「「……」」


 ……あれ、今まで調子よく喋ってきてたのに、急に話す内容がなくなったぞ。


 急に生まれた沈黙に焦って話の内容を考えるが、先程訊いてしまった話から、両親の離婚や母親が男と遊びに行っているという人には話しづらい内容の話をさせてしまったこともあり、迂闊に会話を始めることができない。


 天川もなぜか俺から視線を逸らし、モジモジしているよな様子が窺える。


「ね、ねぇ窪田君」

「な、なんでしょう」

「あ、あの、えっとね? ……窪田君って女の人と付き合ったことあるの?」

「……え?」


 それは、それはどういう意図の質問なんですか天川さん‼︎

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