第2章

第21話 隠し事

 休日が終わり学校に出てきた俺は、亜蘭から一言『ごめん』と謝罪をされた後で、亜蘭が帰っていった後の話をしていた。


「それで、俺が帰ってからはどうなったんだよ。3人で映画見てからカフェとか行ったのか?」

「あー……。うんそうだな。カフェは行かなかったけど、3人で映画見てから、本屋行ったりペットショップ行ったりウィンドウショッピングしたりしてたな」


 嘘は言っていない。


 あたかも3人で映画を観た後に、そのまま3人でウィンドウショッピングに行ったかのような発言をしただけであって、ウィンドウショッピングに何人で行ったのかは言っていないのだ。


 ちなみに、下着屋に行ったことも伏せてある。

 天川を自分になびかせようとしている亜蘭に、『天川と2人で下着屋に行った』なんて到底言えるはずもない。


「なーんだ。ちょっとくらい面白いことになったかなと思ったのに」

「なんだよ面白いことって」

「そりゃ女の子と全く関わりのない颯一が急に女の子2人と自分1人だけになるんだから、何かしら面白いことが起こってもおかしくないだろ?」

「そうそう起きねぇよそんな面白いことなんて」


 うん、めちゃくちゃ面白いこと起きたね。起きまくったね。


 亜蘭だけじゃなくて三折までいなくなって天川と2人きりになったり、そこからウィンドウショッピングに行って下着屋に入ることになったり、焼き鳥屋で天川が間違えてお酒を飲んでしまい俺の家まで運んだりと、むしろ面白いことしか起きていないくらいだ。


 とはいえ、そのどれもが天川をなびかせようとしている亜蘭には気軽に話せる内容ではない。

 これは墓場まで持っていかなければならないレベルである。


「まあそうだよな。ごめん、女の子と一緒に遊ぶの慣れてないのに急に1人にして」


 亜蘭の女癖が悪いのは間違いないが、人間性は見習わなければならないと思う部分が多い。

 こうして自分が悪い部分を悪いと言えるところもその1つだ。


 魅力的な人間性を持ち合わせているからこそ、女の子にモテるわけだからな。


「おばあちゃんが大丈夫だったんならそれでいいよ」

「ああ。ちょっと挫いただけだったみたいで今はピンピンしてる」

「おーい、窪っちーこないだはごめんねーっ。窪っちのおかげで絶対に買わないといけなかった卵、ちゃんと買えたよ〜」


 --⁉︎


 これはまずい、まさかこうして学校で三折が俺たちに話しかけてくるとは思わなかった。

 

 しかもその横には当然のように天川もいる。


 天川からはまた焼き鳥に行こうなんてことを言われはしたが!きっと社交辞令で、もう俺と天川が会話をすることは2度とないのだろうと思っていた。


 それなのにまさか、こうして最悪のタイミングで三折に声をかけられるとは思っていなかった。


 それに!天川は若干気まずそうな雰囲気を醸し出している。


 うん、完全に俺から目逸らしてるなこれ。


 てかそれどころじゃなくて‼︎


 このままだと亜蘭に俺が天川と2人きりになったことに気づかれてしまう。 


 ここは多少強引だったとしても、話を逸らさなければならない。


「そ、そうか。そりゃよかった。それよりいい天気だな」

「え、うん。そだね。焼き鳥美味しかった?」

「……焼き鳥?」


 こ、こいつ--‼︎


 三折は俺の方を見て、したり顔を浮かべていた。

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