第17話 窪田君
私に押し倒された窪田君と、窪田君を押し倒している私の間には、沈黙が生まれていた。
普段の私であれば、こんな沈黙耐えられないかもしれない。
しかし、今の私はこの沈黙が気になる程平静を保ってはいない。
そんな私は微妙な空気なんて全く気にすることなく、ジッと窪田君の顔を見た。
私に押し倒されてオドオドしている窪田君は、なんとも特徴のない顔をしている。
いわゆる塩顔というやつなんだと思う。
あっさりとしている薄い顔だ。
いや、窪田君の顔が塩顔だってことは今どうでもよくて。
……私なんで窪田君を押し倒しているんだろう。
というか、今日何をしていたのかも、私がなぜ窪田君と2人でいるのかも、ここがどこなのかも、何もわからない。
わからないというよりも、頭がフワフワしていて何も考えることができないような状態かな。
そんなことより、今私が1番わかっていないのは……。
「うーん……。やっぱりわかんないなぁ」
「え、わかんないってなにが?」
「……私が窪田君のこと、気になっちゃう理由」
「……え?」
今日何をしていたのかもわからないような状態の中で、頭の中を埋め尽くしていたのは、『私はなぜ窪田君のことが気になっているのか』という疑問だった。
その疑問の答えを見つけるために、窪田君の顔をじっと見つめてみたけど、窪田君が気になっている理由は分からない。
まあそれと同じくらい窪田君も『なに言ってんの?』って感じで疑問符を浮かべているんだけど。
先日咲良にも言った通り、国平君へのラブレターを窪田君に渡した女の子に『多分無理だけどいいのか?』って確認してたり、『国平君の誕生日にプレゼント渡したいからリサーチしてほしい』とお願いされてオッケーしてたりと、窪田君を見ていると面白くて、興味深いという意味で気になってしまうのは確かだ。
しかし、それだけで窪田君のことが気になる理由になるのだろうかと私は思う。
それこそ、国平君みたいに数多くの女の子から告白されている人の方が、見ていて面白いだろうし気になるのが普通ではないだろうか。
それならこの感情は一体なんなのだろう。
今まで私は男の人に興味を持ったことがない。
そんな私が初めて興味を持った、気になった男の子。
教室で窪田君を見つけると、思わず目で追ってしまったり、窪田君と目が合うと思わず心が弾んでしまったり、窪田君と会うからと可愛い服を選んだり。
こんな感情を、『気になる』という言葉だけで終わらせてしまっていいのだろうか。
この気持ちに名前をつけるとしたら……。
いや、結論を出すにはまだあまりにも早すぎる。
今日急いで結論を出す必要はない。
それでも私は、この気持ちがなんなのかという結論に少しでも近づきたくて、窪田君に質問をした。
「……なんで私、窪田君のこと気になってるんだと思う?」
私の質問を聞いた窪田君の表情は、『なに言ってんの?』という表情から、『頭おかしいんじゃないか?』とでも思っていそうな表情へと変化した。
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