第16話 最終手段
「ふぅ……。ようやくついたか」
焼き鳥屋を出た俺は歩いて自宅に帰ってきた。
両親は仕事でいないので、自宅には俺以外誰もいない。
「たらいまぁ〜」
そう、一緒に連れて帰ってきた天川を除いては、だ。
俺は自宅に、誤ってカルピスサワーを飲んで酔っ払ってしまった天川を連れて帰ってきた。
それが最善の策だったとは思わないが、最悪の策だったとも思わない。
万策は尽きていたし、自分で言うのもなんだが俺なら自宅に天川を連れて帰ってきても何もしないからな。
てか本当になんなんだよこの状況。
亜蘭がいたとはいえ、今日天川と一緒に遊ぶこと自体信じられない状況なのに、まさか自宅に天川を連れて帰ってくることになるなんてあり得ないだろ……。
今日の遊びは、天川を亜蘭になびかせるためのものだった。
それならば、どちらかといえば天川は俺の家ではなく亜蘭の家にいなければならない。
いやいなければならないわけではないんだけどね。何方かと言えばって話だから。
そう考えると、この状況は作戦大失敗なんてものではない。
怒りさえ湧いてきそうな状況だが、悪いのは間違えて俺たちが座った卓にカルピスサワーを持ってきた店員であって、俺も天川も、おばあちゃんの体調が悪い亜蘭もけっして悪くはない。
しいていうとすれば、三折だけは悪いような気がする。
三折は卵を買わなければいけないからと帰宅していったが、その理由にも違和感があるし、天川を帰宅させるために今いる場所まで来てほしいというお願いに対しても、家でオムライスを食べているという弱すぎる理由でお断りを入れてきた。
やはり何か裏がありそうなので、三折にはこうして俺が天川を自宅に連れてくることになってしまった責任があるだろう。
「おい、本当に大丈夫かよ……」
「だぁいじょうぶだぁいじょうぶ」
お酒が回ってきているのか、焼き鳥屋にいた時よりも天川の泥酔具合は明らかに悪化している。
俺はため息を吐きながら天川を自分の部屋まで運び、なんとかベッドの上に寝転がせることに成功した。
「とりあえず寝とけ。しばらくしたら起こしてやるから」
時刻はまだ19時前。
2時間程度睡眠すれば、完璧ではなくとも多少酔いは覚めているだろう。
酔いが覚めてからなら自宅までの道もわかるはずなので、俺は天川の酔いが覚めてから天川を自宅まで送っていくことにした。
「うーん……。なんかふわふわしてる〜」
「だから酔っぱらってるんだって言ってるだろ。大人しく寝転がっとけ。ちょっと水持ってくるから--」
そう言って部屋を出ようとすると、ベッドから起き上がった天川に、手首をガシッと掴まれた。
「ちょっ、天川、今起き上がったらバランス崩して倒れる可能性もあるから寝とけって--っ」
次の瞬間、俺は天川に押し倒され、天川が俺に乗りかかるような体勢となってしまう。
「え、ちょっ、天川? どうした?」
「……」
天川は無言で俺の顔を見つめてきている。
なにこれ恥ずかしっ。
思わず目を逸らしてしまいたくなるが、それはそれで見つめられていることを恥ずかしがっていると思われてしまうので、目を逸らさず天川の顔を見つめた。
「うーん……。やっぱりわかんないなぁ」
わからない……?
急に腕を掴まれたかと思ったら押し倒されて、顔を見つめられて、『やっぱりわかんないなぁ』と言われて、何もわからないのはこっちなんだけど。
「え、わかんないってなにが?」
「……私が窪田君のこと、気になっちゃう理由」
「……え?」
天川の言葉の意味をすぐに理解することはできず、俺の思考回路は停止してしまった。
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