第14話 本心?
一体なぜ俺たちの卓に、注文していないカルピスサワーが運ばれてしまったのかは明白だ。
店員がカルピスと、カルピスサワーを間違えて運んできてしまったのだろう。
どちらも同じ真っ白な色をしているので、グラスに入れ間違えるか、別の卓に運ぶ予定だったものを、誤って俺たちの卓に運んでしまう可能性は大いにある。
変に事態を大きくしたくないので、あえて店員に間違えていたことを指摘はしないが、もう少しその辺の管理は徹底してほしいものである。
さあ、酔っぱらってしまった天川をどうしようか……。
というか、酔っぱらったからって『頭撫でて』って言うか普通?
お酒を飲むと酔っ払って、急に泣きだす『泣き上戸』だったり、急に笑いだす『笑い上戸』というのはよく聞くが、天川はいわゆる甘え上戸というやつなのだろうか。
急に甘えられても困るという感情もあるが、心の奥底では、もっと甘えてくれてもいいんだぜ? なんてこと思っている自分が嫌いになりそうだ。
「カルピス、おいしいよねー」
事態は割と深刻なのに、天川はなんの緊張感もなく話しかけてくる。
いや可愛いけどね? 能天気な天川も可愛いけど、目の前の酔っぱらいをどうにかしなければならないこっちの身にもなってくれよ……。
「カルピスは美味いよな。でもこれカルピスじゃなくてカルピスサワーだわ。お酒だなお酒」
「お酒……? じゃあ私、酔っぱらってるのか」
「そうだろうな。なんかいつもと様子も違うし。大丈夫か?」
「うん、大丈夫。だから頭撫でて?」
うんなにも大丈夫じゃないな。
普通大丈夫な人は、『頭撫でて?』なんて言わないんだよ。
というか、普通嫌いだったり好きでもない人に対して『頭撫でて?』なんて言わねえよな?
お酒を飲むと本心が出るって言うし、もしかして天川は酔っ払っていなくとも俺に頭を撫でてほしいと思っていたり……?
いや、まあそれはねぇか。
「ほら、これ俺まだおしぼり使ってないから一回顔ふけって。絶対大丈夫じゃないから」
「大丈夫だって。私今日可愛い下着付けてきてるし」
「ああそうかそれなら大丈夫だな--って何言ってるか分かってんのか!?」
天川の大丈夫の定義が全くわからない。
『お酒を飲んでいるけど大丈夫』の定義と言えば、その場を歩いてみてふらついていないか、とか、顔が赤くなっていないか、とかだ。
それがなんだ、『私今日可愛い下着付けてきてるし』って。
それってもう俺と今日はやるつもりで来ましたって言ってるようなもんだからな?
いや、仮に天川がやるつもりだったのだとしたら、それは俺じゃなくて亜蘭の方なのだろうけど。
「えー、嘘だと思ってるの? ほら、ちゃんと可愛い下着着て--」
「おいやめろって!?」
俺は上の服をめくり上げようとする天川の手を必死につかみ、天川を止めた。
こいつ、酒癖めちゃくちゃ悪いじゃねぇか!?
いや、正直天川の下着が見たくなかったと言えば嘘になる。
しかし、今この場で天川の下着を見てしまうのは、なにか違う気がして俺は天川の手を抑えた。
「え、なに? 何で止めるの?」
「なんでもだ。いいから早く来い」
そして俺は行くあてもなく、焼き鳥屋から急いで天川を連れだしたのだった。
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