第12話 焼き鳥
焼き鳥屋が開店するまで時間をつぶし、俺たちはようやく焼き鳥屋へと入店した。
映画が終わってから焼き鳥屋が開店するまで、本屋に行ったり、服屋に行ったり、ペットショップに行ったりと、色々なことをして時間をつぶした。
天川と2人きりで過ごす初めての時間でわかったのは、やはり天川は天然だということ。
本屋では置かれている本を手に取り、急に本を180度回転して逆さまで読み始めたので、なぜ逆さまで読んでいるのかを問いかけると、『逆さまで読んだら隠された暗号に気付けるんじゃないかと思って』とよくわからないことを言い出した。
本を逆さまで読む行為自体おかしなことだが、そもそも本屋で売っている本に暗号が隠されていると思うこと自体がおかしすぎる。
服屋で服を見ているときは、急に服屋を出てその横にある下着屋に入り、男の俺がいるのにお構いなしで下着を見始めた。
さすがに下着屋には入りづらいなぁと思いながらも、それを天川に伝えると、俺が変なことを考えているように思われてしまう可能性があるので、俺は何も意識していないフリをしながら下着屋へと入った。
そしてしばらく下着を物色してから天川が放った衝撃の一言。
『試着してくるからどんな感じになるか見てくれる?』
……。
いやそんなん無理に決まってますやん!
普通に考えたらわかりますやん服ならまだしも下着の試着なんて男の俺が見れるわけないやん。
天川の言葉は、思わず関西弁になってツッコんでしまう程の驚きだった。
さすがの天川もすぐにおかしなことを言っていると気付いてくれたので、下着を試着した天川の姿を見ることはなかった。
とはいえ、試着した姿を見てくれと言う前に、それがおかしな発言であることに気付いてほしいものである。
まあそんなこんなで、とにかく天川の天然はマジだということが証明されたわけだ。
まあ天然というか、常識外れとも言えるかもしれんけど。
「いい匂い。やっぱり今日は焼き鳥にして正解だった」
天川は焼き鳥の匂いを嗅いだけで、今にも頬がとろけ落ちてしまいそうな表情を見せている。
そんなに焼き鳥好きなのか。なんか意外だな。
「焼き鳥よく来るのか?」
「うん。家族でよく来る。妹が好きなの。あ、私カルピスで。窪田君は?」
「俺はコーラで」
店員にドリンクの注文をして、俺はお手拭きで手を拭いた。
天川が焼き鳥を好きなのも意外だったが、妹がいるというのも意外だった。
お姉ちゃんっていうと、妹の面倒を見たり、家事をしたりと、しっかりしてる子が多いイメージがある。
失礼にはなってしまうが、天川はそのどちらもできなさそうだからな。
天川に関してはこの天然さが天川ならではの可愛さを生み出しているとも言えるので、妹の面倒を見れなかったり、家事ができなかったりするのも仕方がないと割り切ることもできるけど。
それにしてもこんなに天然なお姉ちゃんを持つと大変そうだな妹ちゃん。
「美味いよな、焼き鳥。俺も好きで結構来てる」
「え、そうなんだ。嬉しい」
「俺も天川が焼き鳥好きなの嬉しいよ。天川ってもっと遠い存在だと思ってたからさ、意外と身近なんだなって。
「なにそれ。同級生なんだし身近に決まってるよ」
「そりゃそうだわな」
……ん?
あれ、今天川、俺が焼き鳥好きなのが嬉しいって言ったか?
うん、間違いなくそう言ったよな、聞き間違いではなかったはずだ。
なぜ俺が焼き鳥好きなのが嬉しいんだろうか。
自分が好きな食べ物を友達が好きだったらそりゃ嬉しいのか?
いや、でもただの友達が自分と同じ食べ物を好きだったからって嬉しいって感情には……。
いや、嬉しいってなるよな。
絶対そうだよな、勘違いするな俺、勘違いしたら負けだからな、天川の発言に特別な意味はないはずだ。
「お待たせしました〜。コーラとカルピスでーす」
天川の発言について考えていたところに、最初に注文したコーラとカルピスが到着し、俺は無駄なことを考えるのをやめた。
「「ありがとうございます--⁉︎」」
っとっと。
ジュースを持ってきてくれた店員さんにしたお礼が天川と完璧に被ってしまった。
言葉が被ると気恥ずかしさのようなものはあるが、天川が天然ではありながらも、間違いなく礼儀正しい人間であることがわかったのでよしとしよう。
「それじゃ、乾杯しちゃおっか」
「そうだな」
「それじゃ、初めての2人での遊びにーっ、乾杯!」
「乾杯」
こうして俺と天川2人っきりの飲み会が始まった。
飲み会とは言っても、俺たち未成年だしお酒ではないけど。
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