第11話 2人で

 亜蘭がいなくなり、そして三折までいなくなってしまい、映画館に残されたのは俺と天川の2人だけとなった。


 亜蘭の付き添いとはいえ、超絶美少女である天川と映画に行けるなんて、どれだけ徳を積んでも中々そんな贅沢な状況になることはないだろう。


 そんな普通ではあり得るはずのない状況に、今まさに陥ってしまっている。


 亜蘭がいなくなったとはいえ、三折がいれば持ち前の高いテンションでこの状況も打開してくれるだろうと思っていた。

 それなのに、頼みの綱である三折までいなくなってしまっては、この状況で何をしたらいいかなんて全くわからない。


 一体俺はこの後どうしたらいいんだ……。


 理由はわからないが、三折は『絶対に帰らないで』と言っていた。


 勝手な想像ではあるが、三折は自分が急に帰ったせいで俺と天川の予定がなくなり、家に帰らせてしまうことになるのが嫌だったのだろう。


 となれば三折のためにも、このまま何もせずに帰るという選択肢はない。


 カフェって言ったって、俺そんなオシャレなカフェどこにあるのか知らないし……。


 とりあえずこのまま無言では間がもたないので、俺から天川に話しかけなくては。


「まさか2人になるなんてね」

「--あっ、えっと、そ、そうだな」


 俺から何か話しかけなければと考えていたが、天川の方から話しかけてくれた。


 天川の様子を確認するが、俺の様に緊張している様子はなく、リラックスしておりいつもの天川だ。


 そんな天川の様子を見て、俺も少しだけリラックスすることができた。


「とりあえず何か食べに行く?」

「そ、そうだな。とりあえずコーヒーでも--」

「私、コーヒー飲めない」


 ……そりゃそうだな。

 カッコつけてコーヒーなんて言ったが、俺だってコーヒーなんて好き好んで飲もうとしたことはないし。


「そっ、そうだよな。じゃあファミレスとか行ってドリンクバーにするか?」

「うーん……。それも楽しそうだけど……」


 天川はどうやらファミレスの気分ではない様子。 


 男女が2人っきりでいるとなれば、男の方が女を引っ張っていかなければならない。

 俺も今だけは男らしく、ファミレスではない天川の気分にマッチした何かを考えなければっ!

 

「じゃあ回転寿司とか?」

「うーん……。それも違うかな」

「じゃあファストフードとか!」

「それもちょっと……」

「じゃ、じゃあラーメンとか!」

「メンマ、美味しいよね。でも今はちょっと違うかな……」

「それならピザとか--」

「あっ、わたし焼き鳥食べたい」

「……え、焼き鳥?」


 散々メニューを提案したものの、どのメニューも天川の気分には刺さらなかったようだ。

 そして天川の口から飛び出したのは、意外すぎるメニューだった。


「うん。焼き鳥」

「えっと……まだお昼過ぎだし、焼き鳥屋空いてないような気がする」

「じゃあ開くまで待とう」


 ……マジですか。


 こうして俺は焼き鳥屋が開店するまで、天川とそこら辺をブラブラすることにした。




 ◇◆




「窪田くぅーん……。頭、撫でてぇ……?」


 まさかこんなことに、こんなことになるなんて思わないじゃないか!


 なぜ、なぜ俺は天川から頭を撫でるよう催促されてるんだ⁉︎

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