第10話 3人での映画……?

 俺たちが見にきた映画は、大人気恋愛漫画、『恋花コイバナ』の実写映画だ。


 内容としては、コイバナが好きすぎて毎週のように友達の家にお泊まりをしてコイバナをしていたヒロインが、自分の恋に花を咲かせていくというもの。


 漫画は読んだことがあるが、正直内容は薄い。

 それが実写映画となれば、その内容の薄さは5割り増しになってしまい、上映中の居眠りは必至だろう。


 それでも集中して見ればなんとか楽しめるだろうと思っていたが、内容以前に映画に集中できない事件が発生してしまったので、俺はもう映画なんて見ていないも同然だった。


 事情が事情なので責めることはできないが、まさか亜蘭がいなくなるなんて……。


 亜蘭がいなくなることで発生してしまう問題その1。


 今日は亜蘭に天川をなびかせるために、亜蘭の付き添いで映画を見にきた。

 それなのに主役の亜蘭がいなくなり、付き添いの俺だけになってしまえば、この会の根本的な目的がなくなってしまう。


 天川と三折は純粋に映画を楽しみに来ただけかも知れないが、俺からしてみれば今日はもう消化試合のようなものである。


 問題その2は、亜蘭がいなくなったことで俺が女子2人と一緒に映画を見なければならないことだ。


 ただでさえ人と関わるのが得意ではない俺が、ほぼ初めて会話をする女子2人とこうして映画を一緒に見るなんて、イーサンハンドも真っ青になる最高難度のミッションである。


 一体俺は映画が終わったらどうしたらいいんだろうか……。


 結局俺は映画が終わった後のことばかり考えてしまい、映画の内容は全く入ってこなかった。




 ◇◆




「面白かったねー! まさかヒロインの明日香あすかが彼氏に告白する方法が矢文だなんて」

「うん。面白かった。その矢文をまさか素手でキャッチするとも思ってなかったし」


 え、なにその映画めっちゃ面白そうなんですけど?

 矢文素手でキャッチってどこぞの◯ん姉ちゃんよりすごくないか?


 どうやらこの映画はネタ的な意味で意外と面白かったらしく、天川と三折からはかなり好評だったようだ。


 最初からネタ映画として楽しんでいれば面白かったのかも知れないな。


 そんなことより、結局俺は映画が終わっても、この後どうするかを決めきれていない。


 映画も終わったことだし、もうこのままスッと帰宅してしまうのが1番いいのか、それともせめてどこかのファミレスにでも入って話に花を咲かせる方がいいか。


 あーもう頭が爆発しそうだ。


 とりあえず間が持たなくなりそうなのでテキトーに会話だけ続けておこう。


「面白かったみたいでよかった」

「「……」」


 俺の発言を聞いた天川と三折は、ジッと俺の顔を見つめてくる。


 え、俺何か変なこと言ったかな。


「窪田君は面白かった……?」

「あ、ああ。面白かったぞ?」

「……そっか。ならよかった」

「お人好しなんだね。窪っちって」

「え、俺がお人好し? なんで?」


 2人が俺の顔を見つめて何を考えているか全くわからない。


 何で急にお人好し認定されちゃっだろ俺。


「無意識なのがすごい」

「いや、本当に何言ってるかわからないんだが……」

「わからない方がいいと思うよ」


 無意識だとか、わからない方がいいだとか、何を言っているのかさっぱりすぎて怖いんだけど。


 とりあえずもう帰る方向に話を進めるか。


 亜蘭がいなくなって天川と三折も、もう帰りたいと思っているだろうし。


「まあもういいけど……。とりあえずどうする? 映画も終わったしもう帰るか?」

「いやいやいやいやいや、何言ってんの。今からカフェ行くんだよ? 言ってたじゃん。カフェもいいなって」


 え、亜蘭がいなくなったのに帰りたくないのか……?


 亜蘭がいなくなって早く帰りたいと思っていても、中々言い出しづらいだろう。

 だから俺は、2人に最高のパスを出したつもりだったのだが……。


 そうなると、2人は俺と遊ぶこと自体がそこまで嫌ではないということになってくるが……。


「そうだったような……」

「でしょ。それじゃあ行くよ!」

「天川は大丈夫なのか? この後用事とか」

「……うん。大丈夫」


 若干間があったのが気にはなるが、天川もこの後俺と一緒にカフェに行くことに問題はないらしい。


「おっけー。じゃあ行くか」

「あれ、電話だ。ちょっと待ってて」


 三折が急な電話に出に行く姿を見て、俺は嫌な予感がした。

 まさか、まさかとは思うが先程の亜蘭のようなパターンがあったりは……。


 数十秒程電話をした三折は、わざとらしく早足で戻ってきた。


「ごめんっ。お母さんがどうしても今日限定で半額になってる特売の卵買ってきてほしいらしくて……。ちょっと帰るね」

「え、なんだそれ⁉︎ 卵が特売⁉︎」

「そ、それはすごいね!」


 いや、天川よ。確かにすごいかもしれないが、今驚くべきはそこじゃないぞ。


「1年に1度の大セールらしくてさ」


 いくら1年に1度の大セールだとはいえ、友達との遊びを蹴ってまで行くことではないだろう。


「いや卵くらい親に買いにいってもらえ--」

「うち、超貧乏なの」

「--っ」


 三折の言葉を聞いた俺は言葉を詰まらせた。

 実家が貧乏とか超デリケートな話じゃねぇか。


 「うちのお母さん、1人で私を育ててくれてて、それなのに毎日アルバイトに行ってお金稼いでくれるの。そんなお母さんのために私、半額の卵を買ってあげたいの!」


 な、なんか演技っぽいような気がするのは俺の気のせいなのだろうか……。

 とはいえ、その話を疑うのは失礼すぎるし、さすがにこれ以上突っ込むことはできない。

 

「な、なら仕方がないな」

「うん。人多いだろうけど気をつけてね」

「ありがとね! 絶対帰らないで、2人で楽しんでねー!」


 帰ることを禁止されたのはよくわからない。


 とにかく、亜蘭と三折がいなくなり、映画館に残されたのは俺と天川の2人となってしまった。

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