第9話 トラブル
「ごめんごめーん。ちょっと準備に手間取っちゃって--」
「全然待ってないから大丈夫だぜ」
三折は集合時間から5分程遅れて集合場所にやってきた。
そして集合時間に遅れてきたことを謝罪する三折に、食い気味に返答したのは亜蘭である。
どうやら亜蘭は、先程俺が亜蘭より先に天川に『今来たばっかりだけど』と言ったことをかなり根に持っているらしい。
『さっきは先に言われたけど、今回は俺が先に言ってやったぜ』と踏ん反り返っている亜蘭を見て、俺はため息をついた。
俺別にモテようとしてないし、先程天川に『今来たばっかりだけど』とラブコメのような発言をしてしまったのは本当に無意識だ。
なので三折が来たら亜蘭に言わせてやろうと気を利かせてやったというのに、満足げに踏ん反り返られるとさすがに腹が立つ。
ていうか亜蘭は三折に彼氏がいるらしいと言っていたし、アピールしてもなんの意味もない三折に優しいアピールしてどうすんだよ。いやまあもう本能みたいなもんなんだろうけどさ。
「いや-ほんとごめん」
「5分だけだし大丈夫だよ。映画が始まる時間にも間に合ったしね」
それにしても、改めて三折のことをマジマジと見ると、やはり天川に匹敵するくらい可愛いな。
小柄で今にも抱きしめたくなるような体型に、最近ではあまり見ることのないツインテールを採用しているところはかなりポイントが高い。
天川より三折の方が好きという男子も数多くいるだろう。
それでも俺は、どちらが好きかと訊かれれば天川の方が好きだ。
天然でフワッとした雰囲気に、誰とでも仲良くできる優しい性格。
陰キャの俺的には、天川の優しさは大きな魅力である。
天川なら俺が話しかけても、嫌な顔ひとつせず笑顔を向けて返答してくれるだろうし。
例えるなら、三折は猫タイプで、天川は犬タイプなのだ。
「てか三折は彼氏いるのに今日来てよかったのか?」
亜蘭は唐突に三折に質問した。
俺から直接は訊きづらいなと思っていたが、その点については俺も気になっていた。
彼氏がいるという状況で他の男子と遊びに行けば、少なからず彼氏は嫉妬することになるはずだ。
どちらかの嫉妬が激しくて喧嘩するカップルは大勢いると聞くが、三折は大丈夫なのだろうか。
「いいよ全然。じゃあ彼氏いたら絶対男の子と遊びに行っちゃいけないのかって話じゃん?」
「それもそうだわな。別に悪いことしてるわけじゃねぇし」
三折の言葉を聞いた俺は納得した。
よほど束縛の激しい彼氏なら、今日みたいに彼氏以外の男子と遊びに行くのは無理なのかもしれないが、そもそもそんな束縛の激しいクソ彼氏とは付き合うなって話だしな。
「それじゃ、チケット買いますか!」
「そうだな! 確か券売機はあっちの方に……ん? あ、ごめん電話だわ」
誰かから電話がかかってきた様子の亜蘭は、俺たちから少し離れた場所で電話を始めた。
一体なんの電話なのだろうか。
「なんの電話だろ」
「亜蘭のことだから、女の子と遊んでる最中に別の女の子から電話かかってきてる可能性もあるな」
「うわっ、それめっちゃありそう」
「国平君、女の子たちから大人気だもんね」
そんな話をしていると、電話が終わった様子の亜蘭が小走りで走ってきた。
「ごめん! ちょっと今ばあちゃんが階段で転んで怪我して病院に運ばれたらしくてさ……。ちょっと俺行って来るわ」
「え、大丈夫なのかそれ」
亜蘭にかかってきていた電話は別の女の子ではなく、家族からの電話だったようだ。
それもおばあちゃんが怪我をしたとなると、冗談でも『別の女の子から電話かかってきてる可能性もあるな』と言ったことが申し訳なくなってくる。
「ちょっと足の状態が悪いらしくて、検査しないといけないみたいでさ」
「そういうことならもちろん早く帰っておばあちゃんのそばにいてあげて。私たちは大丈夫だから」
「うん。家族は大切にしなきゃ」
「俺から誘っといてごめん。あとは3人で楽しんでくれ!」
そう言って背を向け走り出す亜蘭に「急ぎすぎて転ぶなよ」とだけ声をかけておいた。
おばあちゃんだけではなく、亜蘭まで転んで怪我をしたら事態は余計に悪化してしまう。
こうして俺たちは亜蘭を抜いた3人で映画を見ることに……。
え、3人で?
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