第5話 国平の作戦

「天川をデートに誘おう」


『急になに言ってるんだ』と突っ込みたいところだが、亜蘭が特定の女子を狙っているときは、毎回急に作戦を思いつき、それを必ず実行している。


 とある女子を狙った時は、その女子が大の犬好きという情報を入手し自分も犬について調べたり、またある女子を狙った時は、実家がお好み焼き屋をしているという情報を入手し美味しいお好み焼きを作る練習をしたり。


 その熱量を別の方向へ向けられないだろうか、と考えたことは幾度となくある。

 それだけの熱量があればT大の入試だって合格できるかもしれない。


 しかし、亜蘭からしてみれば女の子と遊ぶのは、高校球児が甲子園を目指すのと同じ(同じじゃない)なのだ。


 試合に勝つため毎日練習する高校球児と、女子を落とすために下調べをして理想の彼氏になれるよう自分を磨く亜蘭。


 その姿は高校球児でさえ見習うべきかもしれない。


 そんな真剣な亜蘭に『別の方向へ熱量を向けろ』という発言はあまりにも不躾である。


「いつもはもっと外堀を埋めるやり方するのに今回はかなり直球なんだな」


「色々調査して回ったんだけど天川のことが分からなさ過ぎてさ。もう回りくどくいくんじゃなくて、直球でいくことにした」


「いいじゃん。じゃあこの前みたいに今から天川の席に行ってさ、デートに誘って来いよ。それで無様に断られてる様をまたこっちで腹抱えて笑いながら見ててやるから」


「おまえ絶対俺が天川デートに誘っても断られると思ってるだろ。見てろよ絶対成功させてやるから」


 そして亜蘭はなんの迷いもなく天川の席へと突撃していく。


 天川は自分の席で三折と楽しそうに会話をしているので、普通そこに突っ込んでデートに誘うなんてことはしない。

 天川が1人になったところを見計らい、こっそり誘うのが常套手段だ。


 しかし、亜蘭に常識は通用しない。


「天川、今週末映画でも見に行かねぇか?」


「映画……? 私先週ネトクリで10本くらい映画みたからなー。ちょっとお腹いっぱいなんだよね」


「ブッ!」


 危ねぇ、早速吹き出してしまうところだった。

 自宅で映画10本って映画好きすぎだろ。


 本当は1週間で10本も映画を見てしまう程映画好きなのに、その週の翌週に天川を映画に誘ってしまう亜蘭の間の悪さも相当なものだ--危ない、また吹き出すところだった。


「そ、そうなんだ。じゃあ2人でカフェとかどう? 内装がおしゃれなところがあるんだけど」


「うーん……。おしゃれすぎるところって苦手なんだよね。服装とかにも気を遣わないといけなくなるし」


「ブフッ!?」


 俺は再び吹き出しそうになる。


 これもう絶対適当なこと言って断ろうとしてるだけだろ。

 亜蘭も察してやれよ、天川迷惑そうな顔してるぞ。


 まあ諦めずにデートに誘おうとしてる亜蘭の強い気持ちだけは見習いたいけど。


「そ、そうか。じゃあまた誘わせて--」


「いいじゃん映画もカフェも。私もついて行って良い?」


「……え?」


 心が折れた亜蘭が自分の席に戻ろうとしたところで、天川にひたすら断られる亜蘭を見かねたのか、三折が助け舟を出してくれた。


「私が行くならシロシロも行くよね?」


「え、咲良が行くって言っても別に私--」


「だよねっ。アーランと私たち2人だとバランス悪いし、そうだなー……。窪っちも誘おうよ」


 ……え、俺?

 いや、まあバランスを合わせるために誘う亜蘭と仲がいい奴となれば、俺が選ばれるのは必然っちゃ必然か。


「そ、そりゃ別に構わないけど」


「おーい、窪っちー」


 いや俺三折ともほぼ喋ったことないんだけど最初からあだ名って……。

 できればずっと自分の席にいて昼寝でもしたかったのだが、俺は仕方が無く席を立つ。


「話、聞こえてた?」


「聞こえてたよ」


「お、じゃあ話は早いね。じゃあ週末4人で映画ってことで!」


「……天川はそれでいいのか?」


 とんとん拍子で話が進んでしまったが、天川の反応を見るに恐らく天川はこの話にあまり乗り気ではない。


 そんな天川を放ってくわけにはいかないと、俺は確認のために天川に質問した。


「う、うん。大丈夫」


 断ることもできたはずなのに天川はそうせず、俺は天川を含めた4人で週末に映画を見に行くことになった。

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