第3話 恋とは?

「シロシロってさー、よく窪っちの方見てるよね」


 お昼休み、自分の席で親友の咲良とお昼ご飯を食べていた時のこと。


 咲良から唐突にそう言われた私は、咲良の『誰かの名前を呼ぶときは絶対にあだ名で呼ぶ』というこだわりのせいで誰のことを言っているのかすぐに理解することができなかった。


「窪……っち?」


「窪田君だよ。窪田颯一君」


 窪田君とは、私と同じクラスでイケメンで有名な国平君とよく一緒にいる窪田君だ。

 外見が良くて女たらし、実家はお金持ちと何かと話題になる国平君とは対照的に、窪田君は地味で目立たない男の子である。


「私たちの学年、久保さんも窪之内さんもいるし、急に言われてもわかんないよー」


「いやいや、窪田君は窪っちだし、久保さんは久保ーるだし、窪之内君は窪ジョルノだから全然違うよ」


「わかるわけないじゃんそんなのー。てかジョルノってどこの国の人なのそれ」


 咲良のこのクセに困らされたのは今回が初めてではなく、毎日のようにそのあだ名は誰なのかと訊いている。


「それで、シロシロ絶対窪っちの方よく見てるよね?」


「……確かに見てるかも」


 咲良からそう訊かれた私は、自分の直近の行動を思い出してみた。


 すると、確かに私は窪田君の方をよく見ているのだ。


「へぇ。否定しないんだ」


「だって本当のことだし」


「ふふっ。シロシロってこの学校の誰よりも可愛いのに恋愛関係のことは本当に疎いよねー」


「しょ、しょうがないでしょ。興味ないんだし」


 私は友達が多い。


 とは言ってもそのほとんどが女友達で、男の子で本当に友達と呼べる人は一人もいない。


 それは、私の母親が男性関係にだらしない人だったからだ。


 今は優しい男性を見つけて、仲良く交際してるらしいけど。


「……じゃあなんで窪田君のことよく見てるの?」


「……窪田君って国平君と一緒にいるからあんまり目立たないと思うんだけど、窪田君のこと見てるのって面白いんだよ?」


「何が面白いの?」


「昨日は国平君へのラブレターを窪田君に渡した女の子が3人いてね? 『多分無理だけどいいのか?』って確認してたの。面白くない?」


 普通自分ではない男子にラブレターを渡してくれなんてお願い心よく引き受けることはできないし、その場で渡されたラブレターを投げ捨ててもいいくらいだと思う。


 それなのに、お断りするどころか窪田君は相手の女の子のことを気遣うような発言をして見せたのだ。


「うわっ。それラブレター渡しにきた女の子からしたら最悪じゃん……いや、むしろ優しいのか?」


「でしょ? 今日なんか『国平君の誕生日にプレゼント渡したいからリサーチしてほしい』ってお願いされてオッケーしてたし」


「へぇ。それは確かに、お人好しだね」


 お人好し、とは違うような気がする。


 窪田君はきっと、自分のことを諦めているんだと思う。


 国平君と比べて自分の方が勝るものが無いから、国平君の陰に隠れて国平君をサポートするような行動をとっているのではないだろうか。


 そんな私の考えが当たっているのだとしたら、褒められた話ではない。


 窪田君にだっていいところはあって、可能性は無限にあるはずなのだから。


「じゃあさ、とりあえず声かけてみたら?」


「……へ?」


 咲良からの提案に、私は間抜けな声を出してしまった。

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