第2話 視線が合う
なぜか天川に『また明日ねっ』と声をかけられた翌日、俺は登校してきてから天川の様子を半日伺い昼休みになった。
しかし、天川に変わった部分はなく、クラスメイトに囲まれ優しく微笑みながら会話をしているいつも通りの天川だった。
昨日早く下校しようと早歩きで昇降口に向かった俺を追いかけ、わざわざ声をかけてくるという謎の行動をした天川。
せめて何かしらの違和感があればその行動の理由を多少は解明できたのかもしれないが、違和感がなさすぎて昨日の出来事は余計に謎へと包まれてしまっている。
今日一日天川を観察していてわかったことといえば、友達が多いということ。
天川に友達が多いのは知っていたが、決まったグループがあるわけではなく、不特定多数の生徒と入れ替わり立ち替わりで会話をしており、顔が広いのがよくわかった。
まあ超絶美少女と呼ばれている人気者なので友達が多いのは当たり前だけどな。
その中でも特に頻繁に会話をしていたのは同じクラスの
二人は幼馴染で、昔からの仲らしい。
天然で可愛い天川とは違い、三折はあざと可愛いを代表したような生徒だ。
そんな対照的な二人が仲良しだというのは意外ではあったが、可愛いと可愛いが掛け合わされている癒しの場面が見られるのであれば、そんな違和感は気にならない
……いや、だからなんでそんな超絶美少女である天川から俺みたいなド陰キャが声をかけられるんだよ。
全くもってわけがわからないんだが。
俺はいつも亜蘭の側にいるので、周りからみれば陰と陽の差が際立ちクソド陰キャに見えているはず。
それなのになぜ天川は俺に声をかけてきたのだろう。
考えれば考えるほどわけがわからない。
「え、お前今天川の方見てなかったか?」
「--はっ⁉︎ 見てねぇけど⁉︎」
自覚が無いわけではないが、知らず知らずのうちに俺の視線は天川に釘付けになっていたようで、それを亜蘭に指摘されてしまう。
しかし、その指摘をそうだと認めてしまったら、『なぜ天川を見つめていたのか』と理由を訊かれて厄介なことになってしまいそうなので、俺は全力で否定した。
「ああ、なるほど。天川じゃなくて三折か」
「三折でもねぇわ!」
「三折は彼氏がいるって話だからアタックしたことはねぇけど、彼氏がいなかったら一目散にアタックするレベルで美少女だからな。気持ちはわかるぞ」
「いや何にもわかってねぇだろそれ!」
俺がどれだけ否定しても亜蘭は信用してくれない。
まあ天川に視線を向けていたのは事実なので、信用しろって方が難しいか。
「まあそこまで言うなら違うってことにしておいてやるよ」
「本当に違うけどな。お前じゃあるまいし」
「俺は四六時中女の子にしか視線を向けてねぇからな」
「気持ちいいくらい自分の気持ちに正直だな」
「『女の子が大好きだ』って気持ちを恥ずかしいとか後ろめたいとか思ったことねぇからな」
亜蘭が女たらしなのは本人が公言していることもあり周知の事実である。
それでも亜蘭の周りには女子生徒が集まるので、それだけ魅力があるのだろう。
俺には全くわからないけど。
「それだけ自分の気持ち貫いてるとむしろカッコよく見えてくるわ」
「だろ。なのになんで天川は俺になびいてくんねぇのかなぁ」
「そうだな……。とりあえず挨拶するところから始めてみたらどうだ?」
「……は?」
俺が亜蘭にそう提案したのは、昨日俺が帰宅時に天川から『また明日ねっ』と声をかけられたからである。
もしかすると天川は、誰かれかまわず挨拶をしなければ気が済まない性格なのかもしれないし、それならば挨拶をしてくれる人のことも好きなのではないかと考えたのだ。
「いや、なんか挨拶が好きだって噂聞いたから……」
「なんだそれ。でもまあ他に打つ手もねぇしとりあえず今から挨拶してきてみるわ」
そう言って亜蘭は席を立ち、天川たちのいる席へと向かって行った。
相変わらずの行動力に関しては、慎重になりすぎる俺が見習わなければならない部分である。
「天川、こんにちわ」
「……?」
「ブフゥオゥ!」
天川は不思議そうな表情を浮かべて首を傾げた。
そんな天川の反応を見た俺は吹き出してしまう。
そして俺の反応を見た亜蘭は俺の元へ走って戻ってきた。
「おい聞いてた話と違うじゃねぇか⁉︎」
「ご、ごめ、ゴフゥっ! ちょっと面白すぎて死にそうだわ」
「笑い事じゃないんだが⁉︎」
天川は挨拶をしなければ気が済まないというわけでも、挨拶をする人が好きというわけでもなかったらしい。
それならなぜ俺に挨拶を--。
……。
あれ、なんか今天川と視線が合っているような……いや、でも天川がクソド陰キャの俺の方なんて見るはずが……。
--っ。
俺が天川の方へと視線を向けていると、天川は昨日俺に声をかけてきた時と同様の可愛すぎる笑顔を見せた。
あ、これやっぱり俺の方を--。
「なぁ、天川なんかお前の方見てないか?」
「き、気のせいだろそんなの⁉︎」
「でも確かにお前の方に視線が……いや、でもそうだな。俺の勘違いだよな」
亜蘭の発言を全力で否定したものの、亜蘭も俺と同じことを思ったのなら間違い無いのだろう。
天川が俺に向かって可愛すぎる笑顔を向けてきていたことが。
一体なにが起こっているんだ……?
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