女たらしの親友に唯一なびかなかった超絶美少女が、なぜか俺にだけなびく
穂村大樹(ほむら だいじゅ)
第1章
第1話 急な挨拶
「じゃあまた放課後ねっ。亜蘭君」
「おうっ。じゃあな」
お昼休み、俺がトイレから教室に戻ろうとしたところで、クラスメイトで親友の
「お、
「お前みたいな綺麗な顔してる奴がそんな汚い言葉使うべきじゃないと思うぞ」
「分かってるって冗談だよ冗談」
「それにしても相変わらずモテモテだなお前」
「いやーモテすぎて困ってる」
『否定しろよ』と言いたくなったが、否定されてもそれはそれで嫌味なので許してやろう。
亜蘭は顔立ちが整っており長身で優しくて頭がいい。
さらには帰国子女でハーフという非の打ち所がない完璧イケメンだ。
そんな奴が『いや、俺モテないけど?』とか言いやがった日には、俺の最強デコピンを一発お見舞いしてやるところである。
そんなイケメンの亜蘭と冴えない男子高校生の俺、
最初は見た目がいいだけのクズ男なのだろうと勝手に決めつけていたが、話してみると気さくで頼り甲斐のあるいい男だった。
唯一の欠点は女好きであることだが、それでも女子からの人気は高い。
「お前になびかない女子なんてこの世にいないんじゃないか?」
「いや、あいつだけはどれだけ押してもなびかねぇんだよなぁ」
「あいつって?」
「クラスメイトの
その名前を聞いた俺は納得した。
天川は誰もが認める超絶美少女で、男子からの人気は高い。
しかし、天然というか、口数が少ないというか、とにかく何を考えているのかよく分からない女子なのだ。
「ああ……。天川か。確かに天川はお前に興味無さそうだよな」
「ズバッと言うなよ。まあいいけどさ。別に本気で天川のことが好きってわけじゃねぇし」
「お前は特定の女の子と仲良くなりたいんじゃなくて全世界の女の子と仲良くなりたいんだもんな」
「馬鹿にすんなよ? 全宇宙だ」
亜蘭はフフンと鼻を鳴らして自信ありげに胸を張る。
『全宇宙の女子と仲良くする』という目標は褒められたものではないが、明確に目標が決まっており、そこに向かって進もうとしている亜蘭の姿は眩しくすら見える。
「胸張ることじゃないぞそれ」
「とにかく俺は今天川を俺になびかせることに必死なんだよ」
「他の女子とも遊んでるんだから程々にしとけよ。付き合ってるってわけじゃないからいいだろうけど、どこで恨みを買うか分からないからな」
「それは重々承知してる」
若干説教じみた感じにはなってしまったが、亜蘭に説教できる奴なんて同級生の中でも俺だけなので、言うべきところはちゃんと言ってやらないと。
その後、世間話をしながら歩みを進め俺たちは教室へと戻ってきた。
「よし、行ってくる」
「ああ。頑張れよ」
教室に戻るや否や早速亜蘭は天川の席に向かって歩いていき、なんの躊躇もなく声をかけた。
「なぁ天川、明日の放課後2人で飯いかね?」
「ごっ、ご飯と言えば私は炒飯だと思うの」
「炒飯うめぇよな。じゃあ炒飯食べに--」
「でも炊き込みご飯もありだと思うんだよね」
「お、おう……。じゃあ炊き込みご飯を--」
「あ、でもやっぱり白米がいいかな? いや、雑炊も捨て難いし……ふぅ。お腹空いたら眠くなってきちゃった。おやすみなさい」
「え、ちょ、ちょっと天川? 飯は? 俺と飯に行く話はどうなったんだ⁉︎」
「ブフゥッ⁉︎」
俺は亜蘭がわけもわからないまま天川にあしらわれている姿を見て思わず吹き出してしまう。
そんな俺を見た亜蘭は物凄いスピードで俺に詰め寄って来た。
「おいお前笑いすぎだろ!」
「ご、ごめんっ、天川が最強すぎてつい……。亜蘭ほどのイケメンにあれだけ興味を示さない奴がいるんだな」
「俺は諦めねぇぞ!」
「興味が無いってよりはもう避けられてなかったか? まあせいぜい頑張れよ」
亜蘭が女の子からあれ程までに粗雑に扱われているのを初めて見た俺は、爽快な気分で午後の授業に臨むことができた。
◇◆
終業を告げるチャイムが鳴り、俺は教室を出て帰宅しようとしている。
普段は亜蘭と二人で帰宅することが多いが、亜蘭は放課後女の子と予定があるので今日は一緒に帰ることができないはずだ。
そうなったら学校に長居する必要はなく、俺は誰よりも先に教室を出た。
そして昇降口にたどり着いた俺は靴を履き替えようと下駄箱から靴を取り出す。
「窪田君っ」
下駄箱から靴を取り出したところで急に名前を呼ばれた俺は、咄嗟に声のする方向に視線を向ける。
そしてそこにいた人物を見た俺は自分の目を疑った。
俺に声をかけてきたのは、亜蘭をいとも簡単にあしらって見せた天川だったのだ。
……え、なんで天川が俺の名前を呼んでるんだ?
というか俺結構早歩きで昇降口まで来たつもりだったんだけど。
「天川? どうかしたのか?」
「えっと、うーんと……。まっ、また明日ねっ」
「お、おう。また明日な」
天川は俺に可愛すぎる笑顔でそう声をかけてきて、その後すぐに走り去っていってしまった。
え、え、え、?
何一つとして理解できることがないんだが?
天川はなんで俺をここまで追いかけて来たんだ?
なんで俺に声をかけてきたんだ?
なんであんなに……あんなに可愛い笑顔を向けてきたんだ?
訊きたいことはたくさんあるものの、あまりにも可愛すぎる笑顔で手を振られた俺は質問を返すことができなかった。
そして悶々としながら帰宅した俺はそれ以降天川のことしか考えられなくなってしまっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます