第5話 亡き家族との記憶
〈その話、良かったらでいいので、もっと聞かせてもらえませんか?〉
大切な人を失い、心に穴が空いたとき。溜め込んでいた気持ちを、共感してくれる誰かに吐き出すだけで、心はだいぶ楽になる。救われたとさえ思う。
〈少し長くなるけど、それでも良いなら〉
だけど、話すのは簡単じゃないし、勇気が要る。理解されなかったらという漠然とした不安が、どこまでも自分を追いかけてくるからだ。でも、その不安から逃げないでほしい。向き合ってほしい。
〈お願いします〉
その一言に私の思いがすべて詰まっていた。悲哀や親しみ、期待感……。何か1つだけの感情で、今の私を表現することは出来ない。
〈祖母が亡くなったのはね、僕が10歳になろうかという時だった。当時はまだ、小学3年生で何も考えてなかったよ。毎日が楽しくて、これからもそれがずっと続くんだろうって思っていたんだろうね。でも、そんなことはなかった〉
当たり前は失って初めて気づくもの。そう感じたとき、それまで身近だった存在は、手の届かない遠い存在へと変化する。
〈僕が小学校から帰宅したある日、母親から衝撃的なことを聞かされたんだ〉
〈”おばあちゃんが病気で倒れて、病院に運ばれた”って〉
〈僕の頭は真っ白になった〉
ショーの気持ちはよく分かる。大切な人に何か遭った際は、それが事実だとしても、すぐには受け入れられずに拒否してしまう。
〈どうか嘘でありますように。そんな願いは、見事に砕け散った〉
〈病室のベットには、たくさんの管に繋がれた祖母が、意識なく横たわっていた〉
喪失感さえ感じられるショーの文面には、深い悲しみが宿っている。一方の私はどうだろうか。思い出深い時間を過ごしたゆえに、何度も、会いに行きたいと声に出したが、その度ごとに断られた。
『とてもじゃないが、子どもには見せられない』
『見ていられないくらいの有り様で、子どもには耐えられない』
そう言って、私をお見舞いに行かせなかったのは、家族なりの優しさだったのかもしれない。おじいちゃんの変わり果てた姿を見ていたら、私はきっと、正気ではいられなくなったに違いない。
〈ショーさんは、自分の祖母を見た瞬間、何を思ったんですか?〉
死の怖さなのか。それとも、生の儚さか。病気と闘う人を前にしても、感じ方は人それぞれだ。
〈恐れかな。祖母を失うこと自体、考えられなかった〉
ショーは怖くなかったんだろうか。いつか死ぬということに。そして、誰もそれには抗えないという事実に。
〈家族を失った時、怖くありませんでしたか?死ぬのは嫌だって〉
私は怖かった。だって、棺の中で永眠するおじいちゃんを見た夜、私はあまりの怖さから、一睡も出来ずに朝まで過ごしたから。それでも怒られることはなく、家族は常に、私のことを心配していた。
〈むしろ、懸命に生きようと思い始めてたよ〉
〈やりたいこと見つけて、後悔なく生きたいなって〉
そう思えたことがすごい。でも、私らしく表現するのなら。
〈かっこいいですね、ショーさん〉
長すぎず、短すぎず。それでいて、心のこもるメッセージにするのが自然だ。そうすれば、私の気持ちはまっすぐ相手に届いてくれる。
〈ありがとう、ユイ。なんだか照れるね〉
ショーのメッセージを見た途端、褒められた気がして顔が赤くなった。恥ずかしさだけでなく、嬉しさもある。ショーと出会えてよかった。心の奥深くから感じるその感情に、嘘は混じっていなかった。
〈そんなこと言われると、照れくさくなってきます〉
でも、照れくさいままの感情が私は良い。例え不慣れな恋でも、淡い気持ちを持てるのは今しかないから。
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