第2話 戸惑う恋愛オタク
声に出しても、頭の中で復唱しても、やっぱり実感が湧いてこない。どうして私なの?考えれば考えるほど、これは結婚詐欺なのではないかと思えてしまう。よく言うところでのロマンス詐欺。だけど、画面上の文章のどこにも、SNSやメールに繋がるような情報は書かれていない。添付し忘れたのだろうか。だとしたら、ハッカーらしくないミスだ。私は画面を閉じるため、×ボタンをクリックした。しかし直後に、別の新しい画面が表示され、私は、さらに戸惑いを隠せなくなった。
「結婚と引き換えに、ウイルス解除……?」
何を言っているんだろう。そんな非現実的な取引が存在するわけないのに。でも、私の頬は赤面し、耳は誰が見ても分かるほど赤くなっていた。多分、恥ずかしいんだと思う。今まで、誰かの恋愛を応援する立場だったのに、突然、誰かとの恋愛を意識しようとしても、どんな顔をすればいいのかよく分からない。
「こんな時に、
愛生とは、仲の良い、彼氏持ちの女友達のことだ。彼女がいれば、こんな状況の中でも、冷静に自分を見つめ直し、正しい判断を下せるのだろうか。確証はない。だけど、そうであってほしいと私自身、勝手に思っていた。
「ねえ、愛生。私は一体、どうしたら良いの?」
答えは返ってこない。分かっている。愛生が今、この場にいないことも。これは、私が解決するべき問題だってことも。それでも、別の場所にいる愛生に向かって、私が語り掛けたのは、そうすることで、頭の中から明確な答えが出ると期待していたからに、他ならなかった。
でも、答えは出そうにないから、直感に頼るしかない。私は1人、泣きたくなってしまった。どこの誰かも分からないハッカーにパソコンを乗っ取られ、結婚を申し込まれるなんて。込み上げる涙と一緒に、戸惑いや、恥ずかしさが体の内側から溢れ出そうになるのを、私はグッと我慢した。
目の前に表示されているのは、ハッカーからの思いがけない提案。その内容は普通ではなく、私が想像してきた恋愛とは、別の意味でファンタジーなものだ。もちろん、パソコンを買い替えれば、この恋愛は終わることになる。でも、初めての恋愛を、普通ではないからという理由で終わらせたくはない。こういう時、愛生なら、私にどんな言葉をかけるだろう。
『せっかくだから、やれるとこまでやってみようよ!』
ふと、愛生が言っていたことを思い出した。多分、私が試験勉強をしている時に、励ましの意味でかけてくれたセリフだ。彼女なら、非現実的なことでも、全力で楽しもうとするはず。そうか、彼女みたいになれるのならきっと……。
「やっぱり無理!」
そんなことが出来るなら、私は、恋愛に関して奥手になっていない。誰かに告白されるその瞬間を待ち続けていたから、私はずっと恋愛未経験なだけ。そう言い聞かせてきた。だけど、愛生にはこうも言われたことがある。
『待っているだけじゃ、つかめるチャンスもつかめないよ』
あの時、私は何も言い返せなかった。だって、本当にその通りだったから。だから、チャンスは、自分自身でつかまなきゃいけないんだ。それが例え、嘘だとしても。お願い、神様。今だけ夢を見させて。そんな気持ちで、×ボタンではなく、□ボタンを押し、全画面表示にしてみる。
そうすると、画面上に新たなメッセージが追加されたのが分かった。見れば、私に対する配慮なのか、返信欄まで設けてある。本気なのかもしれない。
〈突然ごめんね。僕はショー。君の名前は?良かったら、僕の話を聞いてもらいたいし、君のことも知っておきたいんだ。どうかな?〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます