ハッカーからの贈り物【第6話執筆中】

刻堂元記

第1話 突拍子もないプロポーズ

 私、漆間結うるしまゆいにとっての恋愛はファンタジーだ。誰かに告白されることもないし、自分から告白することもない。だって、勇気が持てないから。だって、断られたら心が傷ついちゃうから。


 でも、他人の恋愛は全力で応援した。女友達に彼氏ができたと聞いたら、祝福の言葉を送ったし、漫画の中の推しキャラに恋人が出来たら、自分の事のように喜んだ。見ていて羨ましいなとは思った。でも、女友達や推しキャラのように、行動には移せなかった。だから私は1人だった。女友達はいても、推しキャラはいても、恋人になってくれる存在は、私の前には現れなかったからだ。


 だけど、そんな私でも、恋愛まとめサイトは、つい自然と見てしまう。なんでだろう。女友達からの恋愛相談に乗りたいんだろうか。いや、それとも私は、まだ自分のところに彼氏となってくれる男性が現れることを夢見ているんだろうか。


「はははっ……。そんなわけないじゃん」


 独り言のように、自分に自分で言い聞かせてみる。小さい頃にクラスの人気者の男子にやってもらったお姫様抱っこ。あれを20歳になった今でもやってもらえるなんていうのは、私が持つ、僅かな希望的観測に過ぎない。


「あ、これ面白そう」


 目に留まった記事は、『ネット恋愛からのスピード結婚!? 愛を育んだカップルたちの秘訣とは……』という少し長いタイトルのもの。今は昔と違って、SNSやオンラインゲームで知り合った人と、交流を深めながらその流れで付き合い、上手くいったら結婚というケースもよくあるらしい。まあ、記事の内容をよく読めば、その詳細が分かり、今後の参考程度にはなるかもしれない。


 カチカチっというダブルクリックと同時に、サイトがその記事のページに遷移する、はずだった。画面いっぱいに表示されたのは、記事の本文ではなく、ウイルスに感染したことを示す警告文。そしてなぜか再生される、メッセージ音声。


「あなたがお使いになっているこのパソコンは、ウイルスに感染しました。そのため、このパソコンを復旧させるには、早い行動が必要です」


 どうすればいいんだろう。考えなしに、クリックなんて押すんじゃなかった。心の中では、もう既に遅いと分かっていながら、何とか復活させられないかと、色々なボタンを長押ししたり、連打したりしてみる。


「やっぱりダメか~。買い替えるしかないかな……」


 新しく買ったばかりというわけではないものの、まだ数年くらいしか経っていない。そのうえ、保障期間が切れた直後の出来事だったので、私にとっては尚の事きつかった。


「今って、幾らくらいでパソコンが買えるんだろう?」


 天井をぼんやりと見上げながら、私は1人、疑問を口にした。数万円、もしかしたら十数万円はかかるかもしれない。しかし、それほどの金額をすぐに出せるほど、私にお金があるわけではない。そうなると、しばらくは節約しなければならなくなりそうだ。仕方ない、全て私の責任だ。


 変わらぬ画面を見つめ、パソコンがウイルスに感染したという現実を、私が受け入れ始めた時、パソコンから再生されていた音声が突然、止まった。


「直った……?」


 不確かな事実を、ある種の願望としてパソコンに向けた私は、祈るような気持ちで、起こるべく変化を見守った。すると警告画面が消え、代わりに別のメッセージが表れた。それは、どこかに連絡をしろという類のものではなく、かと言って金銭を要求するような種のものでもない。しかしそこには、私が思わず動揺してしまうくらいの衝撃的な内容が、長々と書かれていた。


「え、これって……。まさかの結婚プロポーズ……!?」

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