第29話 誕生日会
3月3日。彼女に家に集まり、七瀬の誕生日会を開いていた。
千夏と晴斗も俺が初めて七瀬の家に来たときと同じような反応をしていた。
「お屋敷って感じ……私の家には和室ないからさ何かテンションあがる!」
俺は彼女の家に来るのが2回目だからこの前より緊張感はない。
「千夏、テンション高いな。七瀬さん、ピザ好きだったよね? 弘輝が適当なもの買ってこいと言われたから買ってきたよ」
晴斗が、頼んだピザが入った箱をテーブルに置くと七瀬は不思議そうにその箱を見つめる。
おそらく七瀬が思っていることはこうだろう。
私がこの前のクリスマスパーティーで、ピザを何枚か食べていたから岩田さんに好きと勘違いされた。だが、ここでピザが好きというわけではないと言うわけにもいかない……と。
「俺は家でチーズの生ハム巻きを作って持ってきた。作る前に聞くべきだったが、生ハムいけるか?」
「食べれますよ。美味しそうです」
生ハムを食べれない男がここにいるから一応聞いてみたが食べられるのなら良かった。
「えっ、弘輝の手作り? 美味しそう!」
「弘輝もやれば料理できるんだな。めんどくさがりや卒業だな」
「めんどくさがりやになった覚えはない。で、千夏は何を持ってきたんだ?」
晴斗、俺、という順番で持ってきたものを横に長いテーブルに置いてきたが、まだ千夏は何も出していない。
「私は後で。ことりんが用意したそれは?」
「これはマシュマロクラッカーです」
誕生日で主役というのに七瀬が用意していて驚いた。
「美味しそう! さてさてそれじゃあ、ことりんの誕生会を始めま~す!」
全員グラスを片手に持ち、乾杯した。
「七瀬、誕生日おめでとう」
「ことりん、ハッピーバースデー!」
「七瀬さん、誕生おめでとう」
「みなさん、ありがとうございます」
***
「そう言えば皆さんは高校からの友達ですか?」
食べ終えたあと、七瀬は気になったのか俺にそんなことを聞いてきた。
「そうだよー。後、幼稚園が一緒だった。その時は今みたいに話したりしてなかったけど……」
晴斗と千夏が同じ幼稚園だったことは仲良くなってから知った。晴斗は一方的に俺のことを知っていたらしいけど。
「俺は幼稚園の頃の弘輝、知ってるよ。今と変わらないね」
「小さい頃の立川くん……」
こちらを見て何か訴えている様子の七瀬だが、俺は嫌な気がして目をそらした。
小さい頃の写真なんて絶対に見せないし、過去のことを話すつもりはない。
「さて、私はそろそろあれを持ってくるね」
千夏はそう言って部屋から出ていってしまう。
「あれとは……?」
七瀬が千夏のいうあれがわからないのは当然だ。あれ=誕生日ケーキなのだから。
千夏は来てからケーキを七瀬のお母さんに冷蔵庫に入れてほしいと頼んだらしい。今はそれを取りに行ったみたいだ。
「お待たせ~ケーキだよ」
「ケーキ、とても美味しそうです」
七瀬は両手を合わせてテーブルに置かれたケーキを見ていた。
「『hitode』っていうカフェのケーキだよ」
そのカフェって確か七瀬とパンケーキを食べに行ったところだよな。ケーキも食べたいと言っていたがこんなに早く叶うとは……。
「4人分買ったからまずは主役のことりんが選んでね」
ケーキはチョコケーキ、ショートケーキ、チーズケーキ、メロンケーキがあった。
七瀬がメロンケーキを選び、次に千夏がショートケーキを取る。晴斗が残り物でといったので俺はチョコケーキを取った。
「美味しいです。千夏さん、ありがとうございます」
「良かったぁ~。ことりん、一緒に写真撮ろうよ」
「はい、撮りましょう」
七瀬と千夏がツーショットを撮る中、俺はチョコケーキを食べていた。
「弘輝もことりんと写真撮らない? ことりん、弘輝とのツーショット写真ほしくない?」
俺とのツーショット写真なんていらんだろと思っていたが、七瀬は頷いた。
「ほ、ほしいです。立川くん、一緒に写真撮りませんか?」
七瀬はスマホを持って俺の隣に来た。そんなに近寄らなくても聞こえていると言うのに距離が近い。
「わ、わかった……撮ろうか」
写真は苦手だ。けど、七瀬が一緒に撮りたいとお願いされては断れない。
「で、では……撮りますよ?」
「お、おう……」
撮った写真は後で七瀬が送ってくれることになった。
「次は誕生日プレゼントだね。はい、私からはクマの時計だよ。前、ことりんが可愛いって言ってたやつ」
「ありがとうございます……可愛いです」
千夏から受け取ったものを見て七瀬は嬉しそうにしていた。
「俺からはこれ。この前、言ってたやつね」
晴斗はそう言って七瀬に封筒みたいなものを渡していた。
(なんだあれ……この前言ってたやつとはなんだろうか)
「最後は弘輝だね。期待してるよ~」
千夏からそんなことを言われ、なぜ七瀬ではなく千夏が期待するんだと突っ込みたくなった。
「俺からはヘアピン……」
女子にプレゼントをあげる機会なんてほとんどないため七瀬のプレゼントはかなり悩んだ。
「ありがとうございます」
受け取って嬉しそうにする彼女を見て俺もつられて自然と笑顔になった。
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