第27話 あなたのことが気になる

「弘輝ってめんどくさいよな」


 あれは確か夏だった。嘘偽りなく直球に晴斗からそう言われた。


「随分とストレートだな」


 めんどくさいと言われたが俺は自分のことをめんどくさいと思われる性格だと自負しているため特に何も思わなかった。


「弘輝に言い回しは効かないからな」


「……そうだな。ところでめんどくさいと急に言ってきたのはなんでだ?」


 訳もわからず晴斗が言うわけがない。何か意味があっての発言だ。


「いや、口数が少なくてそれを俺が解読しないといけないからさ……」


「それはまぁ、頑張ってくれ。俺が急にぺらぺら喋り出すのはおかしいだろ」


「まぁ、そうだな。弘輝は弘輝だ。めんどくさいところも俺は弘輝の良さだと思ってるぞ」


 めんどくさいところがいいところということだろうか。


「それはいい意味でいっているのか?」


「おう。弘輝もこの際言ってみてくれよ。俺もめんどくさいか?」


「あぁ、物凄く。思ったことを口に出さんからな」


 めんどくさいと言われたんだ。言い返さないと気が済まなくなった。


「隠し事はしてないんだけどなぁ~」


「してるだろ」


 と言った会話をしたのを覚えている。これを話すと七瀬は真剣に聞いていた。そんなに真面目に聞く話ではないけどな……。


「立川くんはめんどくさくありませんし、口数が少ないとは思えませんね。立川くんは私とたくさん話してくれます。解読?ですが、私は立川くんの言いたいことわかってます」


 グイッと距離を近づけてきた七瀬。これは、無意識にやっているのだろうか。


 さっきまで話に夢中で意識することはなかったのに魔法が溶けたようにドキドキし始めた。


 こんなに近いといつかこんなにもドキドキしていることが七瀬にバレる。


「なら、当ててみろ。俺が今、何を考えていたか。言いたいことがわかってるんだろ?」


 自分から今の状況をさらすようなことをなぜ言ってしまったんだろうと言った後で後悔する。


「そうですね……」


 七瀬の悩む姿を見てしまい、俺は目線をそらした。なぜならその七瀬の姿を見て可愛いと思ってしまったからだ。


「私とこうして相合傘をしていて意識してしまっている。この事が私に伝わらないように」


 彼女はそう言って違いますか?と目で問いかけてきた。


「当たりだ……七瀬は、エスパーか?」


「ふふっ、そうなのかもしれませんね。実は私も立川くんといて意識してしまってます。相合傘なんてまるで恋人のようではないですか」


 恋人とか言ったら更に意識してしまうではないか。

 

「立川くんは好きな人はいますか?」


「えっ?」


「好きな人です。気になる人とかいますか?」


 晴斗や千夏に聞かれたら何かしら答えられる。けど、彼女の前ではなぜか答えられない。


「俺は……」


 七瀬が気になるなんて言ったらそれはもう告白になるだろう。言えない、言えるわけない。


「俺は?」


「いないかな……」


「そうですか。私は、気になる人がいます」


 そういえば言っていたな、クリスマスの時に。七瀬には気になる人がいると。


「気になる……確か内緒だったよな?」


「いえ、あの場には先輩方がいて恥ずかしかったのですが、立川くんだけに教えます」


(俺にだけ? 聞いてもいいのか?)


 七瀬は俺だけが聞こえるよう少し近寄って目を見てきた。


「私は、あなたのことが気になります」


 それはどういう意味かと聞きたい。けど、今聞いてはいけない気がした。


「着きました。今日は話を聞いてくださりありがとうございます」


 マンションの前まで連れてきてもらい、七瀬とはここでお別れだ。伝えるなら今しかないだろう。


「七瀬」


「どうしました?」


 彼女が伝えてくれたんだ。俺も伝えないとな。


「俺も七瀬のことが気になる。今は友達として」


 俺が今伝えるべきことはこれだ。どう反応されるのかと反応を伺っていると七瀬は、嬉しそうに笑った。


「一緒ですね、私も友達として気になります。ところで明日、私の家に来ませんか?」


「七瀬の家に?」


「はい、美味しい和菓子が……いえ、洋菓子があるんですよ」


 なぜ言い直した。どういう間違いをしたらそうなるんだ。俺が和菓子嫌いで家に来ないと思ったのだろうか。

 

「和菓子でも洋菓子でもいいけど、俺が行ってもいいのか?」


「はい、お母さんに最近仲良くしている方がいると言ったところ是非立川くんに会いたいとのことで」


 女子の家に行くことすら緊張するというのにお母さんが会うなんて更に緊張する。


「じゃあ、行こうかな……」


「わかりました! では、明日の10時に立川くんの家に私が迎えに行きます」


 俺が明日家に来ることが決まったとたんに七瀬の表情がゆるゆるに緩む。


「ありがとう」


 七瀬の家は行ったことがない。家の近くまでは来たことがあるのだが、どんな家なのだろうか。


「ところで立川くん、少しお願いというか……」


 七瀬はそう言って口をもごもごさせて言いたいけど言いにくそうな表情をしていた。


「お願い? できる範囲であれば聞くけど……」


「その……5年前は下の名前で呼んでくれたじゃないですか。ですから、また呼んでほしいなと思いまして……。い、一回だけでいいので」


 それはつまり琴梨と呼んでほしいということだろう。頑張ってお願いしてくれたんだ。


 わかった、なら、今日からは琴梨と呼ぶなと言いたいところなのだが、俺はそんなに軽く女子を下の名前で呼べる気がしない。だが───。


「わかった。また明日な、琴梨」


「はいっ! また明日です、弘輝くん」




 






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