第25話 見つかったもの
「あぁ、そうだよ……俺が七瀬さんからチョコを取った」
宮崎がそう言うと俺と七瀬は顔を見合わせた。何か面白い嘘を付いてくれるかと思ったが意外とあっさり明かしたな。
「で、その袋は今どこなんだ?」
「もう俺は持ってないよ……」
もう? 持ってないということは誰かに渡したのか?
いや、1番最悪なことも考えられるが今は考えないでおこう。
「じゃあ、どこにやったんだ?」
「それは────」
「あっ、いた! 弘輝! ことりん!」
千夏の声がし、後ろを振り向くと水色の袋を持った彼女と隣には晴斗がいた。晴斗は見つけたぞと俺に目で合図してきた。
「千夏さん、それは……」
「うん、ことりんが作ったマカロンとパウンドケーキが入ってる……」
千夏の手元には中はちゃんと入っていて、汚れた袋だった。
「見つけた時にはもうこの状態でさ……」
そう言って千夏は持ち主である七瀬に渡した。受け取った七瀬は中が気になり、袋の中を見た。
「…………」
俺も中を覗かせてもらい、見てみると袋の中にはぐちゃぐちゃになったパウンドケーキと割れたマカロンがあった。
「っ! お前、何でこんなことしたんだよ」
俺はカッときて宮崎の胸ぐらをつかんだ。七瀬が作ったものをこんなにされて怒らないわけがない。
「何でお前なんだよ……何でお前だけ七瀬さんに特別扱いされてるんだよ」
「特別扱い?」
「七瀬さんは、みんなの聖女様だ。それなのに何でお前はいつも聖女様の側にいるんだよ。付き合ってもないのに何なんだよお前」
みんなの聖女様ってなんだよ。そんなこと思ってるから七瀬が人との距離を感じてるんだ。
特別扱いって言うけど七瀬と仲良くしているだけでなぜそう捉えられるのだろうか。
けど、話を聞いてわかった。宮崎は、七瀬と仲良くしている俺にムカついて俺へのバレンタインチョコを潰して渡さないようにしたんだ。
「七瀬さん、こんな奴のどこが────」
「立川くんのことこんなとか言わないでください!」
七瀬は急に大きな声を出したので俺は驚いて宮崎の襟から手を離した。千夏や晴斗もそれに驚いていた。
「立川くんは私にとって特別な人です。ですが、その特別は友達という意味です。友達の側にいて何が悪いんですか?」
初めて見た、七瀬が怒るところ……。宮崎は七瀬の怒る姿を見て一歩後ろに下がった。
「ご、ごめん……七瀬さん」
「……簡単には許せません。ですが、もう立川くんのこと悪く言わないと約束してくれるのなら私はあなたを許します」
七瀬は頑張って作ったものを潰されたことよりも友達を悪く言われたことに対して怒っていた。
「もう言わないよ」
「……わかりました、許します。先程の会話は不愉快でした。私の友達の悪口を次聞いた時は許しませんから」
***
宮崎が立ち去った後、俺達は4組へ移動した。
「ありがとう七瀬」
「いえ、あれは怒って当然です。こちらこそ私のために怒ってくれてありがとうございます」
一礼し、ペコリとお辞儀する七瀬。俺もつられて一礼した。
「ところでこれはどこにあったのですか?」
七瀬はこれを持ってきた千夏に尋ねる。だが、これは非常に言いにくい。
「この袋、踏まれた後があります。廊下やグラウンドでしょうか?」
「……ことりん、実はそれ、ゴミ捨て場にあったの」
「ゴミ捨て場……」
「相当、弘輝の元へ行かないようにしたかったんだな」
晴斗はそう言って千夏の背中を優しく擦った。
これは予想だが、おそらく宮崎は俺、晴斗、千夏の分が入った袋から俺に渡すものを探した。
俺へ渡すものだとわかった理由は袋には名前が書いてあったからだ。
そして俺の名前が書かれた袋は宮崎により足で踏まれ、中のものは潰れた。そして、それはゴミ捨て場へ。
教室のゴミ箱は食べ物を捨ててはいけないのでゴミ捨て場なんだろう。
「立川くん、今日の夜にもう一度作ります。ですから、明日、受け取ってほしいです!」
七瀬がこういって俺が嫌という選択肢はないだろう。大変だからいいよというのも何か違う気がする。
「わかった。楽しみにしてるよ」
「はい、楽しみにしていてください」
水色の袋は七瀬が持って帰って捨てるそう。さすがにゴミ捨て場にあったのを食べる、なんてことはしない。
「では、また明日」
「あぁ、また明日」
七瀬と別れた後、俺は今日あった出来事を思い出していた。
(こんな奴……か)
宮崎にそう言われて俺は否定はできないと思った。何か特別できるわけでもないし、外見がいいわけでもない。
俺は七瀬とは不釣り合いなのか。まぁ、だからと言って俺は七瀬と仲良くするのをやめるなどしない。
七瀬と友達をやめて距離を取るのは間違った選択。周りがどう言おうと何かを変えるつもりはない。
彼女と友達でいられて隣にいても文句を言われないよう勉学かスポーツ、何かを頑張ってみよう。
考え事をしながら歩いていると後ろから誰かに肩を叩かれた。
「立川じゃん、やっほー」
「宵谷先輩、こんばんは」
「誰かからチョコもらった?」
「まぁ、友達からもらいましたけど……」
そう言うと宵谷先輩は、背負っているリュックからチョコが入った袋を出して俺に渡した。
「ハッピーバレンタイン。本命だよ」
「嘘ですよね? まぁ、ありがとうございます」
「何で嘘ってわかったの? 本気かもしれないのに」
あれを見ていなければ俺はここで本気だと思っていただろう。だが、今朝俺は宵谷先輩が仲のいい男女に今受け取ったチョコを配っているのを見た。
「宵谷先輩は、男子友達いるじゃないですか。その人達にもこれと同じチョコを渡していたので」
「へぇ~、こっそり見てたんだぁ~」
ニヤニヤしながら宵谷先輩は、顔を近づけてきたので俺は彼女から少し距離を取った。
「こっそりではなく見かけただけです」
「じゃあ、そう言うことにしておくね」
(ほんとなんだけどなぁ……)
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