第23話 消えた袋

 2月13日。琴梨と千夏は、ショッピングモールに来て、あるものを買いに来ていた。


「ことりんは、マカロンを作るんだっけ?」


「はい、初めて作りますが、挑戦することは大事です。千夏さんにも友チョコとして渡すので楽しみにしていてください」


「わーい、楽しみにしてるね」


 話しながらも琴梨はアーモンドパウダーやチョコレートをカゴの中に入れていく。


「千夏さんはチョコですか?」


「うん。後、パウンドケーキも作る予定。やっぱりことりんは、弘輝に本命を渡す感じ?」


「本命ではなく友チョコですよ」


 琴梨はそう言うが、千夏は本当かなぁと半分疑うような目で見ていた。


「そうだ、弘輝は、気付いてくれた?」


 千夏だけには弘輝と一度会ったことがあると琴梨は教えていた。どうしたら弘輝に気付いてもらえるかの相談に乗ってもらったこともある。


「気付いてもらえました。中々気付いてもらえなくて。ですが、立川くんはちゃんと私のことを覚えていました」


 気付いてもらいたくてアピールした結果、弘輝は気付いてくれた。あの少しの時間しか話していないが、お互い名前を覚えていたのだ。


「良かったね。それにしても何か運命の再会って感じ」


「運命……そうですね、会えるとは思っていませんでした」


「うんうん。ところで本当に弘輝にだけ距離が近い理由は、気付いてもらえるようにアピールしただけだったの?」


「そ、そうですよ……気付いてもらうためだけです」


 琴梨はそう言うが、千夏がそう簡単に納得するわけがない。なぜなら気付いてもらった後でも琴梨は弘輝との距離が近いままだからだ。


 寧ろ、気付いてもらえてからその距離は前よりグッと近づいたようにも思える。


「そうかなぁ~。ことりん、弘輝のこと気になってるんじゃないの? 弘輝に可愛いよとか、大丈夫かとか言われる度、ドキドキしてない?」


 千夏にそう言われて琴梨は思い出してみる。弘輝に私服が可愛いと言われたことや大丈夫かと心配してくれた時のことを。


「素直に嬉しかったです……」


「そっか。ところでことりん、そのマカロンは誰にあげるの?」


 弘輝とは友達ですと言い続ける彼女だが、誰かを気になっているから今日ここへ来てマカロンの材料を買いに来たのだ。


 千夏はバレンタインのチョコの材料を買いに行くと琴梨を誘うと彼女もあげたい人がいると言って付き合ってくれたのだ。


 だが、千夏はそのあげたい人が誰なのかまだ聞いていなかった。


「それはもちろん、千夏さんや立川くん、岩田くんへの友チョコです」


「弘輝への特別なチョコは?」


「そ、そんなのありませんよ……」


「作ってあげたら喜ぶと思うけどなぁ~」


 千夏は必要な材料を入れ終え、琴梨と一緒にレジへ並ぶ。


「喜びますか?」

 

「そりゃもちろん。ことりんからもらって嬉しくない男子はいないよ」


 琴梨は千夏の言葉を聞いてあげたときのことを想像する。


「……考えてみます」


 友チョコではなく弘輝にはみんなとは違う別のチョコを琴梨は作ろうと考え始めていた。


 チョコの材料を買った後は、琴梨の家で千夏と一緒に作ることになった。


「ことりんのエプロン姿ってなんかいいね。似合ってる」


「そんなこと初めて言われました。さて、頑張って作りましょう、千夏さん!」


「うん、頑張ろ~!!」





***





 同時刻。俺と晴斗は二人でファーストフード店に来ていた。


 俺と晴斗はいつもよく食べるポテトとドリンクセットを頼み、明日のことを話していた。


「弘輝、明日が何の日か知っているか?」


「バレンタインだろ」


「おっ、もしかして七瀬さんからもらえるんじゃないかって期待してる?」


「してない。晴斗はもちろん、彼女からもらえると期待しているんだろ?」


 彼女が用意していないわけない。予想だが、千夏は大きなハートチョコを作ってきそうだ。


「そりゃ、もらえると期待してる。千夏、弘輝の分も用意するって言ってたぞ。友チョコだけど」


「いちいち付け足さんでもわかる」


 バレンタインなんて俺には関係ないイベント。毎年、いつの間にか気付いたら終わっている。


 だが、今年は去年と違って少しだけ期待している俺がいた。もしかしたら七瀬からもらえたりするんじゃないかと……。


「ところで七瀬さんとは昔会ったことがあるという話を俺にも詳しく聞かせてくれ」


「誰から聞いたんだよ……」


 隠すことでもないのでこの後、晴斗に話すことにした。






***







 翌日の昼休み。学食で4人食べ終えた後、七瀬と千夏はまだ2人で話したいことがあるそうで俺と晴斗は先に教室に戻ることにした。


「いや~、楽しみだな。チョコ」


「そうだな……」


 まさか本当に七瀬からももらえるとは思わなかった。


 昼休み、昼食を食べていると千夏が放課後にチョコを渡すから勝手に帰らないでねと言われた。


 その際、七瀬が私も用意したので受け取ってほしいと俺と晴斗に向けて言っていたのでもらえることは確実だろう。


「良かったな」


「何だそのニヤニヤは……」


 晴斗と話して教室を戻っていると七瀬のクラスである四組の教室から急に出てきた男子と俺はぶつかりそうになった。


「おぉ……」

「!? ご、ごめん……」


 その男子は俺に謝り、何かを持って立ち去っていった。


「弘輝、大丈夫か?」


「大丈夫だ。ぶつかってないし」


(急に飛び出してきて変な声が出てしまった……)

 

 




***




 放課後になり、俺のクラスである2組で待っていたが七瀬が中々来ない。


「私、ことりん迎えに行ってくるよ」


 心配になった千夏は、俺と晴斗にそう言って七瀬のいる4組へ向かった。


「あっ、ことりん!」


「ち、千夏さん……」


 明らかに様子がおかしいことに千夏は気付き、どうかしたのかと心配になった。


「ことりん、どうしたの!?」


「実は立川くんに渡すマカロンとパウンドケーキが入った袋が失くなりました」







     

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