第22話 閉じ込められた2人
「はぁ……はぁ……立川くん、私、もう」
目の前にいる七瀬は、我慢できそうにない表情でいた。
ヤバい、七瀬があんな風だと無になっていた俺も我慢できんわ。
「七瀬、心を無にしたら───」
「できません! できるわけないじゃないですか!」
誰もいない写真部の部室。落とし物があってこの部室に入っただけなのになんでこうなったんだ。
七瀬は端に座り込み、寒いので両手をこ擦り合わせたり、はぁはぁと息で手を温めていた。俺はというと彼女と一緒で座り込み手を温めていた。
「こ、心を無にすれば寒さなんて忘れる……」
「む、無理です。今日は冷え込むと今朝ニュースで言ってましたし」
言ってたな。今朝、俺もそのニュースを見ていて嫌だなと思っていた。
「ごめんなさい、私が渡しに行こうと行ったから……」
「いや、七瀬が謝ることはない。これは事故だ」
そう、これは誰が悪いとかそういうのではない。なぜ写真部の部室にいるのか、そしてなぜこんな寒い中、ここから出れない状況なのか、時は15分前に遡る。
─────15分前
冬休みが終わり3学期が始まってから1週間が経とうとしていたある日の放課後。今日も七瀬と帰ろうとしていると廊下で封筒が落ちているのに気付いた。
「立川くん、封筒が落ちてます」
「ほんとだ。落とし物かな?」
彼女は座り込み、その落ちている封筒を手に取る。その封筒の裏を見ると彼女はあっと声を漏らした。
「裏に写真部と書かれています。となるとこの封筒は、写真部の物ということですね。立川くん、届けに行ってもいいですか?」
「いいよ、俺もついていく」
封筒を持って持ち主がいるだろう写真部の部室へ行くことになった。だが、部室には入れても中には誰もいなかった。
「勝手に入ってしまいました……。あっ、もう1つ部屋がありますよ。この部屋にいるかもしれません」
隣の部屋に続く扉だろうか? そう思った瞬間、ガチャッと音がした。
(なんだか嫌な予感が……)
彼女は奥の部屋に入り、俺は嫌な予感がしてさっき入ってきたドアの方へ向かった。
(あっ、やっぱり……)
ガチャンという音は、やはり鍵を閉められる音だったか。
「七瀬、ピンチだ……」
奥の部屋に入っていった七瀬に続き、俺もその部屋に入った。
「この部屋にも部員の方はいないようです。どうかしましたか?」
「この部室のドアが今さっき鍵で閉められた。おそらく部員の誰かだろう」
「ど、どうしましょう! 窓は開いてます、こちらの部屋にも扉は!」
七瀬は焦りだし、どこか出れる手段はないかと探しだす。
「あちらには扉はないです。立川くん、どうしますか?」
俺も焦っているが七瀬は一旦落ち着かせた方がいい気がする。
「一旦落ち着こうか、七瀬。扉は1つでそれは鍵がかけられて開かない。窓は開いているがここは3階だ。降りたらまぁ、言わなくてもわかるよな?」
七瀬は3階から下までどれほどの高さか気になったのか窓から下を覗く。
「む、無理ですね……。あっ、スマホです! スマホで千夏さんか岩田くんに助けを求めましょう」
いいアイデアだが、俺はスマホをロッカーに置いている。
「じゃあ、よろしく頼む」
「よろしく? 私は、スマホをロッカーに置いています。ですから持っていませんよ。もしかして立川くんもですか?」
(はい、そのまさかです)
「あぁ、俺も持ってない。ドアの前から叫んで通りかかった人から気付いてもらうしかないな」
女子と二人っきりで密室イベント。誰も見ていないから変なことをしてもバレないというラブコメ的展開だが、今はそんなことを考えている状況ではない。
(寒すぎる……)
暖房が付いておらず早くここからでなければ数分後には固まって動けなくなりそうだ。
「任せてください! 助けを求めたらいいんですよね?」
「そ、そうだけど……」
七瀬は、ドアの近くへ移動し、すーはーと息を吸って吐いていた。
「すみませーん! 誰かいますかー! いたら返事をしてほしいです!」
(おぉ、注文の時より声が出てる……。いや、何に感動しているんだ)
七瀬が頑張って声を出してくれたが、シーンと静まり返るだけで誰かの声は聞こえてこない。
「次は立川くんの番です」
まぁ、そうなるよな。大きい声を出すなんて千夏に遠くから「それ、なんて書いてるー?」と聞かれて「うさぎ~!」と叫び返した時以来ないぞ。
この思い出は絶対に思い出したくもないので詳しくは話さない。
「わかった。できる限り頑張ってみるよ」
この地獄のようなところから抜け出すためにもここは頑張ろう。
「誰かー、助けてくださいー! いたら返事してもらえると助かりまーす!」
(……ダメだ)
「防音なんですかね?」
「いや、それはないと思うけど……。後は、窓から下を通った人に助けを求める方法だな」
「次は窓からですね」
七瀬は窓を開けて下に人がいないか探す。だが、部活をしている人はグランドの中心にいてここから声が届く距離ではない。
「ダメです。もう無理です……」
七瀬は座り込み、手をこ擦り合わせて寒そうにしていた。
「これ、貸すよ。寒いだろ?」
上に着ていたジャケットを七瀬の肩にかけると彼女は驚いていた。
「ですが、立川くんが……」
「俺は大丈夫だ」
(大丈夫ではないが……)
「ありがとうございます」
人が下を通りかかるまで数分待ってみるが、誰も来ない。
そして冒頭に戻る。外が暗くなってきた。部活動もそろそろ終わる。
「さて、もう一度試してみようか、七瀬」
「……なるほど、部活が終わった人たちが校舎に戻ってくるので下に人がいますね」
七瀬はバッと立ち上がり、窓から下を見て人がいないか探した。
「いました。すみませーん! あっ、星宮先輩!」
グランドから来たわけてはないが、テニスコートから歩いてきたなこさんに助けを求めると彼女は気付いてくれた。
***
「助かりました、星宮先輩」
「なこさん、ありがとうございます」
無事写真部から出ることができた後、俺と七瀬はなこさんにお礼を言った。
「2人とも大丈夫? 七瀬さん、体冷えたんじゃない?」
そう言ってなこさんは七瀬を優しくぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫です……ありがとうございます」
「じゃ、外も暗いし弘輝くんは、ちゃんと七瀬さんを送って帰ることね」
なこさんはそう言ってどこかへ行ってしまった。
「じゃあ、帰るか」
「くしゅっ」
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