第20話 特別な存在
「あっ、ことりん! って、手繋いでるけどもしや告白後!?」
予想通り誤解された。
「違う。迷子にならないよう、後、七瀬に変な男が寄らないように手を繋いでいただけだ」
「へぇ~、まぁ、ことりんが嬉しそうだから追及はなしでいいや。じゃ、お昼にしよっか」
千夏はそう言って晴斗と手を繋いで前を歩く。七瀬は俺と手を離すかと思ったが離す様子はない。
これじゃあ、千夏が言っていたダブルデートみたいだな。
「七瀬は、何が食べたいか決まったか?」
手を離す感じがしないので俺は彼女が食べたい店へ付いていくことにした。
「オムライスが、食べたいです」
「いいな、オムライス。この前も食べてなかったか?」
「今度はデミグラスソースにしようかと。立川くんは、どうしますか?」
フードコートに来るといつもラーメンやカレーを食べることが多いがたまには違うものが食べたくなる。
「七瀬と同じでオムライスにしようかな。俺はケチャップで」
同じ店にし、俺と彼女は並んで注文をした。千夏と晴斗は違う店で定食を頼んだらしく先に席を取ってくれるそう。
オムライスができあがるまで俺と七瀬は店の前の邪魔にならないところで待つ。
「もう手はいいんじゃないか……?」
これから頼んだものを運ばなければならない。片手が塞がっては持ちにくいだろう。
「そ、そうですね……」
少し残念そうに彼女は俺から手を離す。
なんだか俺が彼女を悲しませるような状況になってしまったんだが……。
「そ、そう言えばこの前言っていた言葉の意味を聞いてもいいか?」
「この前?」
あれから何度も考えたがやはり『私は、あなたに大切なことを教えてもらいました』という言葉の意味はわからなかった。
「私はあなたに大切なことを教えてもらいましたって俺に言っただろ? その大切なことって何かわからなくてさ……」
俺は彼女に何かを教えたことはない。だから彼女がいう大切なことがわからなかった。
「わからなくていいですよ。私が立川くんに感謝しているってことです」
「感謝?」
「はい、立川くんにはたくさん助けてもらってますから」
「いや、俺の方が助けられてるよ。お弁当とか。いつも美味しいお弁当をありがとな」
感謝の気持ちを伝えると彼女は、ニッコリと微笑んだ。
「どういたしまして。これからも作らせてください」
***
「あ~あ、明日から学校嫌だな~」
食べ終えた後、千夏がそんなことを言うので俺は冬休み最終日ということを思い出してしまった。忘れようとしていたのに。
こういう休みがあると学校に行きたくなくなる人は多い。だが、千夏以外の七瀬と晴斗はそんな様子ではなさそうだ。
「私は少し楽しみです。学校に行けば毎日皆さんに会えますから」
七瀬の言葉に千夏は予想通り、彼女に抱きつき、ことりん大好きと言っていた。
可愛いくて抱きつくのはいいが、ここはフードコートで食べるところだから我慢をしてくれ。
「嬉しいな、弘輝。七瀬さんは、学校に行けば毎日弘輝に会えるから楽しみと言っているんだよ」
晴斗が俺に七瀬が言ったことを勝手に変えた言葉を言ってきた。
「そんなこと言ってなかったぞ。みんなって言っていた。俺は3人の中の1人であるだけだ、そんな七瀬の特別な存在になった覚えはない」
「そうかな? 俺は弘輝が七瀬さんの特別な存在に見えるよ」
俺が七瀬の特別な存在?
「理由を聞こうか」
「理由なんて簡単だよ。七瀬さんにお弁当作ってもらってるとか、クリスマスを一緒に過ごすとか友達っていうのは───」
「クリスマス……俺、晴斗に言ってないよな?」
クリスマス、七瀬と一緒に過ごしたことを知っているのは俺達となこさん、宵谷先輩だ。晴斗や千夏には教えていない。
「七瀬さんが言っていたのを聞いた。話を戻すけど、逆でも言える。弘輝にとって七瀬さんは特別な存在」
「……そうかな。俺は七瀬が傘も差さずにいるところを心配してお節介なことをした。そのお礼がお弁当のようなものだ。だからそんな大した関係じゃない」
「お節介なことだとしても弘輝は彼女にとっていいことをしたんじゃないか? お節介だったらお弁当を作ってくれることもないし、弘輝に懐くこともない」
懐く……か。俺は彼女に何かをした記憶はない。好かれるようなことも。
「七瀬が俺に懐いているように見えるのか?」
「見えるよ。七瀬さんが男子と仲良くしているって言ったら弘輝ぐらいだし」
(俺だけ……か)
同時刻、向かい側に座る琴梨と千夏は、小声で話していた。
「ことりん、弘輝とはどう?」
「どうって……普通にお友達ですよ」
「えっーと、じゃあ、好きとかは?」
聞き方が悪かったと思い、千夏は違う質問をする。
「……と、友達として好きです」
「ん~、例えばさ弘輝が他の女子と話してたらモヤモヤしたりしない? もしかして付き合い始めてるんじゃないかって……」
「モヤモヤ? 胸焼けですか?」
琴梨の返答に千夏は笑いが我慢できず手で顔を隠しながら可愛いと言って小さく笑っていた。
「違うよ、なんか嫌だなみたいな気持ちにならないのかなって」
「なるほど。私は、ならないと思います。寧ろ、立川くんに彼女ができたら1番に祝いたいですね」
「そ、そうなんだ……」
千夏は、琴梨と弘輝の距離がだんだん縮まっているので琴梨は弘輝のことを好きになっていると思っていたが、本人がこういうのでもう何がなんだかわからない。
「弘輝と付き合いたいとか思わないの?」
そう尋ねると彼女は顔を赤くした。
「つ、付き合うなんてそんな……」
「(可愛いなぁ~)」
千夏は親目線で琴梨の反応を見て楽しむのだった。
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