第19話 誤解されてもいい
1月10日。冬休み最終日。俺と七瀬、晴斗、千夏の4人でショッピングモールへ行くことになった。
「最初、別行動でもいいかな? 私達は服を見に行きたいからさ」
千夏がそう言ったので、集合していたが別れる。
七瀬と千夏が服屋に行ってしまい、俺と晴斗はどこに行こうかと話し合った。結果、晴斗が新しい靴がほしいらしく靴屋へと移動する。
「七瀬さんとここまで来たんだな。仲が進展しているようで」
「進展って同じ委員会仲間から友達になっただけだ」
「友達ねぇ……。友達友達って言うけど、弘輝と七瀬さんの初々しい会話聞いてると……」
晴斗はそこでなぜか言葉を止める。ここからは言うつもりがないらしい。
「聞いてるとなんだ?」
「いや、これは俺が言ったらダメだ。弘輝が答えを出さないとな」
俺が出さなければならないものって何だろうか。
考えながら晴斗とショッピングモール内でいること1時間。千夏から連絡が来て集合となった。
「あっ、いた! お~い!」
千夏が手を振っていたので俺と晴斗は彼女がいるところへ向かう。
千夏の横には先程と違う服を着ている七瀬の姿があった。
(新しい服を買ったのだろう)
そう思っていると七瀬が、俺のところにかけ寄ってきた。
「立川くん、見てください! 千夏さんに選んでもらいました」
服を見せたくてしょうがなかったのだろうか。彼女は、俺に感想を求めている様子だったので俺は思ったことをそのまま言うことにする。
「七瀬に似合っていてとても可愛いよ。千夏に選んでもらって良かったな」
感想と共に頭を撫でると彼女は、ふふっと小さく笑った。
(この可愛らしさ、まさに小動物だな……)
「ありがとうございます。立川くん、少し私と付き合ってほしい場所があるのですが、よろしいですか?」
(えっ……俺だけ?)
話を聞いていた千夏や晴斗を見るとどうぞ行ってらっしゃいと言っているような目でこちらを見てきた。
「お昼にフードコート集合ね。じゃ、晴斗行こっか」
「そうだな」
千夏と晴斗は、俺と七瀬を二人っきりにするためにどこかに行ってしまった。
二人っきりになってしまい、俺と七瀬は顔を見合わせて沈黙状態になってしまった。すると、先に七瀬が口を開いた。
「私と二人っきりになるのは嫌でしたか?」
嫌なわけがない。寧ろ、二人っきりでいいのか不安なくらいだ。
「嫌じゃないよ。付き合ってほしいところってどこなんだ?」
「そうですね、取り敢えず着いてきてください」
七瀬はそう言って俺の手を取る。彼女の手は、柔らかくて強く握ってしまうと折れてしまいそうだ。
俺は彼女に着いていくが、七瀬は手を繋ぐことに何も思っていないのだろうか。
「七瀬、手はどこまで繋ぐつもりなんだ?」
もし、手を繋いでいるところを知り合いに見られたら誤解される。俺が誤解されてもいいと思っても七瀬には悪い。
「み、店に着くまでです。人が多いとはぐれますからね」
「……そうか、わかった」
はぐれた時は、連絡を取ればいい話だが、俺は彼女と手を繋ぐことが嬉しかった。
「さて、着きました。立川くんには選んでほしいものがあります」
店内に入り、目的の場所へ到着したはずだが、七瀬は俺の手を離さず、前へ進んでいく。
彼女に連れて来られたのはアクセサリーショップ。俺は、一体、何を選ばされるのだろうか。
アクセサリーショップなんて来たことないし、落ち着かない……。
「ありました。先程、千夏さんともここに来たのですが、どちらを買おうか迷ってしまいまだ買えてないんです」
そう言って彼女は、リボンが並べてあるコーナーで立ち止まった。
「この水色と黄色のリボン、立川くんはどちらが私に似合うと思いますか?」
これ、俺が選んでもいいのだろうか。けど、七瀬が俺に選んでほしいと言ったのだからここは答えてあげた方がいいのだろう。
時々、七瀬がつけてきているのは薄緑のリボンだ。水色と黄色のどちらかと聞かれても正直七瀬ならどちらも似合うと思う。
だが、ここで正直にどちらも似合うと言うのもどうかと。
「水色……かな。俺は、七瀬に水色のリボンが似合うと思う」
「水色、わかりました。では、お店の外で少し待っていてください」
そう言って七瀬は、水色のリボンをもってレジへ向かった。俺は、七瀬に言われた通り、先に店を出て外で待つ。
なぜ俺に聞いたのか不思議だが、あまり気にすることでもないか。
女子の千夏と男子である俺の意見が聞きたかった、これが理由だろう。
七瀬が店から出てくるまで特にすることもないので館内マップを見ていた。
(本屋に行って新しい本でも買いたいな……)
読書が趣味で平日はよく本を読む。そんなことを思いながら本屋が何階か探す。
(あった……ここのショッピングモール来なさすぎて場所が覚えられ……ん?)
マップから目を離し、先程七瀬といた店の方を見ると店の前で七瀬が20代ぐらいの男性2人に絡まれていた。
(ナンパか……)
男の人達七瀬の知り合いとは思えない。七瀬が嫌がっていることもあの人達はわからないのだろうか。
早く助けに行こう。相手に何を言われるかわからんが、せっかくの七瀬との時間が奪われるわけには……。
俺は、彼女のところへ行き、声をかけることにした。
「ごめん、七瀬。館内マップ見てた」
そう声をかけると彼女は、俺が来てくれた表情がパッと明るくなった。そして俺の腕をぎゅっと抱きしめ、体を寄せてきた。
すると、それを見て先程まで七瀬に絡んでいた奴らは彼氏いんのかよと言って去っていった。
「こうなるならずっと側にいれば良かったな。ごめんな、離れて」
マップなんて見ている場合ではなかった。反省しなくては。
「い、いえ、立川くんは何も悪くありません。また何かあったら怖いので手繋いでいてもいいですか?」
ぎゅっと俺の腕に抱きついたまま離れない七瀬は、俺にそう聞いた。
「いいけど、もし、同じ学校の人に会えば恋人だって勘違いされるぞ」
「……私は別に構いませんよ」
彼女は、そう言って俺の腕から手を離し、手を差し出した。
「七瀬さんやあんま簡単に男に手繋ぎたいなんて言うんじゃないぞ」
親みたいなノリでそう言うと彼女は面白かったのかふふっと小さく笑った。
「過保護な親みたいですね。私は、誰でも手を繋ぎたいというわけではありませんよ。心配してくださりありがとうございます」
「……誤解されてもしらんからな」
「誤解されてもいいです」
差し出された手をさっき繋いだ時のように俺は優しく握った。
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