第18話 いつから勝負になったんだ?

 1月3日。今日は、いとこの松下有沙が《まつしたありさ》が俺の家にやって来た。


 彼女は、小学4年生で小さい頃からよく遊んであげることが多かった。


「弘輝お兄ちゃん、その人誰?」


 俺の家にやって来て、家に入った有沙が、ソファに座っている七瀬を見た瞬間、修羅場みたいな空気になった。


「あ、あぁ、友達の七瀬琴梨だ。ほら、挨拶」


 有沙の背中を優しく叩き、自己紹介しようかと言ったが、有沙は嫌そうな表情をする。


 そんな態度を取られてしまい、七瀬は泣きそうになっていた。だが、七瀬は首を振り、いつものような笑顔で有沙のところへ行き、彼女と目線が合うように少しかがむ。


「初めまして、七瀬琴梨です。有沙ちゃんに会いたくて今日は立川くんの家にお邪魔しています」


 今日、なぜこうなったのかというと七瀬は小さい子と話す機会があまりないらしく俺が会わせてやろうかと提案したところ会いたいと彼女が言った。


「……彼女なんですか?」


 挨拶もせず何を言うかと思えば有沙は、七瀬にそう尋ねた。


「彼女……いえ、立川くんの彼女ではありませんよ。私は彼の友達です」


「じゃあ、好きでもなんでもないんですね?」


「友達としては好きですよ」


「恋愛としては?」

「ちょっと、ストップ! 有沙、七瀬が困ってるから。それに七瀬も全部答えなくていいからな」


 有沙がさっきから七瀬に対して敵意を向けているのでヤバイと思った俺は間に入った。


「弘輝お兄ちゃんは、そのお姉さんと付き合ってるんですか?」


「さっき七瀬に聞いたのに俺にも聞くの?」


 俺がそう言っている中、七瀬は、両手を口元にやって何やら感動している様子だった。


(なんだこの状況……)


「お、お姉さん……」


(あぁ、なるほどお姉さんって言われて嬉しいのか)


「友達だよ」


「友達……そうだね、弘輝お兄ちゃんが言うならそうなんだね。名字呼びだし、付き合ってないね」


 名字呼び=付き合ってないの意味がわからないが、まぁ、事実が伝わったのならいいか。


「お兄ちゃん、何しますか? 私、お絵かきがしたいな」


「お~いいな。お絵かきしようか」


 俺と有沙がお絵かきの準備をしているところを見た七瀬がなるほどと呟いた。


「お兄さんですね……」


「七瀬もやるか?」


「はい、やります!」


 有沙が持ってきたクレヨンと色鉛筆を使って絵を書くことになったのだが、楽しくできそうにない。


「お姉さんより私の方が上手いです!」


「お姉さん! そうですね、有沙さんの方が上手いです」


 誉められているのに有沙は頬を膨らませた。言い争う予定だったが、七瀬が誉めてきたので思い通りに行かなくて悔しいのだろう。


「むぅ~、弘輝お兄ちゃんは、どちらの方が上手いと思いますか?」


 有沙は、自分のお城やお姫様が書かれた可愛らしい絵と七瀬のどこかの風景が書かれた絵のどちらが上手いか尋ねてきた。


(七瀬の絵が凄すぎる……後でもらえないか聞こうかな)


 けど、ここで七瀬と言ったら有沙が泣くだろう。返答に困っていると七瀬が小さく笑いかけてきた。


「俺は有沙が上手いと思うよ」

「私もそう思います! 有沙さんの方が上手いです!」


 俺と七瀬は、有沙の機嫌を損なわないように誉める作戦を実行した。


「ふふん、有沙、お姉さんに勝ちました」


「おめでとうございます!」


 七瀬はパチパチと拍手する。彼女の場合、機嫌をよくするために相手を誉めるのではなく嘘偽りなく誉めているのだろう。


(てか、いつから勝負になったんだ?)


「立川くんも上手いですね。よく頑張りました」


 絵を書いて誉められる年齢ではないのだが、七瀬に頭を撫でられた。子供扱いされている気がしたが、撫でられているとなんだか不思議な気持ちになる。


(うん……悪くない)


「お姉さんだけズルい! 有沙もお兄ちゃんに頑張ったねやる!」


 そう言って有沙も俺の頭を撫でる。


「弘輝お兄ちゃん、頑張ったね」


「……あ、ありがとう」


 お絵かきが終わり、片付けていると有沙が七瀬に話しかけていた。


「あ、あの……」


「はい、なんですか? 有沙ちゃん」


「凄かった、琴梨お姉さんの絵……」


 お姉さんと呼ばれて絵を誉められた七瀬は、表情がパァと明るくなり、小さく笑った。


「ありがとうございます」


「……琴梨お姉ちゃん」


「はぅ!」


 お姉さんからのお姉ちゃん呼びに七瀬は、喜ぶあまり倒れそうになっていた。


「お姉ちゃん、いいですね……」


「大丈夫か、七瀬」


「大丈夫です。有沙ちゃん、クッキーを作ってきたのですが食べますか?」


 そう言って袋に入ったイチゴジャムのクッキーを有沙に渡した。

 

「食べる! お姉ちゃんありがと」


「ふふっ、有沙ちゃん、可愛いですね」


「そうだな……」


 最初は、この二人は仲良くなれないのかもしれないと思っていたが、この様子なら大丈夫そうだな。


 俺も七瀬からクッキーをもらい、おやつの時間となった。その後は、テレビゲームをやったり、部屋は広くないがかくれんぼをして遊んだ。


 遊んでいると時間はあっという間で有沙が帰らなければならない時間となった。


 有沙のお母さんが駅まで迎えに来ているそうで俺と七瀬は駅まで有沙を連れていくことにした。


「弘輝お兄ちゃん、琴梨お姉ちゃん、今日は一緒に遊んでくれてありがとう」


「こちらこそありがとうございます。また遊べる機会がありましたらまた何か作ってきますね」


「またな有沙」


 バイバイと手を振り、有沙はお母さんと手を繋いで行ってしまった。


「今日は、ありがとうございます、立川くん」


「お姉さん呼びはどうだ?」


「そうですね、姉になった気分でした。後、やはり子供は可愛いですね」


「……そうだな」







     

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