2章 あなたに気付いてほしい

第15話 夢の中

(ん……何かが上に……)


 目を開けるとベッド上になぜか七瀬がいた。このおかしな状況を誰か説明してほしい。


 お泊まり会をした覚えはないし、家に上げた覚えもない。鍵も閉めて、戸締まりもした。入れるわけがない。


(それにしてもその格好はなんだ……)


 彼女は、薄っぺらい寝間着を来ており、俺のことをじっと見つめている。


「な、七瀬……?」


 名前を呼ぶが、返事はせずに七瀬はだんだんと俺の顔へ近づいてくる。すると、彼女は口を開いた。


「私はあなたに大切なことを教えてもらいました」


 この前、言っていた言葉だ。結局、俺には意味がわからなかった。大切なことってなんだ? 俺は七瀬に大切なことを言った覚えはない。


「大切なことってなんだよ……」


 そう問いかけるが彼女はまた答えることなく、無言だ。


(てか、この距離、キスでもするつもりなのか?)


 仰向けに寝ている俺に襲いかかるような七瀬に俺はドキドキしっぱなしだった。


 綺麗な髪が頬に当たってくすぐったい。この吸い込まれるような瞳は何なんだろうか。


「立川くん、私は────」


(私は────?)





***





「危なっ……」


 自分がベッドから落ちそうになっていることに気付き俺は目が覚めた。


 カーテンを開けると明るい日差しが差し込んできた。


「あれ……」


 さっきのは夢か……。七瀬が家にいるわけがない。この前の言葉が気になり、彼女のことを考えていたら夢に出てきたというわけだ。


 キスしそうとか俺、実は七瀬とキスしたいって思っているのか?


 ダメだ、後になれば夢の内容は忘れるが、これは今すぐ忘れよう。七瀬に会ったらどんな顔したらいいかわからなくなるからな。


 両手で頬をパチンと叩き、ベッドから降りてバイトへ行く準備をした。





***





(疲れた……)


 いつもよりお客さんが多く今日は動きっぱなしだった。


 帰る準備をしているとなこさんがお疲れと言って声をかけてきた。


「いや~今日は、お客さん多かったね。お疲れ様のキャラメルあげるよ」

 

 そう言ってなこさんからキャラメルを受け取った。


「ありがとうございます。なこさんもお疲れ様です」


「うん、お疲れー」


 彼女は机に突っ伏してぐでーんとだらけていた。なこさんの仕事している姿はとても憧れる。笑顔で何かあればサポートに回れるところが。


「キャラメルのお礼になこさんにはブラックコーヒーあげます」


「わ~い!ってブラックコーヒー飲めないの知ってるくせに~」


「そうでしたっけ?」


「む~言ったよ~。けど、受け取っとく。帰ったら砂糖混ぜて飲むよ」


 俺から缶コーヒーを受け取り、彼女も帰る支度をする。


「聖女様とはどう? 関係は順調?」


「順調……?」


「進展したかなぁーて」


「進展って俺と七瀬は友達ですから」


 俺は七瀬の隣に並べるような男ではない。七瀬は友達として仲良くしていきたい。


「そっか……。あっ、コーヒー美味しくいただきます」


 荷物を持ったなこさんは、俺に挨拶をして店の外を出た。


 家に帰るとすぐに夕食の準備だ。と言っても料理はしない。炊いていたご飯と後は、冷凍食品だ。


 変わらない美味しさ。けど、七瀬が作ってくれるおかずの方が美味しい。


(この冬休み中に七瀬を見習って料理にチャレンジしてみるか……)


 レシピはわからないのでスマホで調べることになる。料理器具は、ここに引っ越すことを決めたときに親からもらったから問題なし。


 夕食を終えて少しテレビでも見ていようとしたその時、七瀬から電話がかかってきたので電話を取った。


「七瀬?」


『あっ、立川くん、こんばんは。今、少しよろしいでしょうか?』


「あぁ、大丈夫だ」


『初詣一緒に行きませんか?』


「初詣?」


『はい、一緒に行きたいなと思いまして』


 初詣は、毎年、家族と行っていたが、友達と行くのもありだな。


「いいよ。一緒に行こうか」


『はい! ところで夕食はもう食べましたか?』


「うん、さっき食べたよ。七瀬は?」


『私も食べました。今日はドリアです』


「いいなドリア。美味しそう」


『えぇ、美味しかったですよ』


「……俺、明日、自分で料理してみることにしたんだ」


『いいですね、私の手助けは必要ないですか?』


 料理ができる七瀬が側にいてくれることはありがたいが、まずは一人でやってみたい。


「気持ちだけ受け取っておく、ありがとな。一人で頑張ってみる」


『わかりました。ところで何を作る予定なのですか?』


「そうだな……」


 まだ決めていない。今から調べて決めようとしていたが、ここは七瀬に聞いてみよう。


「初心者でも作れそうなものってあるか?」


『そうですね……オムライスはどうですか?』


「オムライス……わかった。明日はオムライスを作ってみる」


『はい、頑張ってください』


 初詣から始まり、俺と七瀬は一時間ほど電話で話していた。


 話が終わってはまた新しい話題を彼女が話し始める。別にそれが嫌なわけではないが、七瀬が話すことが好きという新たなことを知った。


『話しすぎましたね。そろそろ終わりましょうか』


「わかった。じゃあ、お休み」


『はい、お休みなさい、立川くん』


 七瀬との電話を切り、俺は『オムライスレシピ』と検索した。


 材料、必要なものをチェックし、明日作る準備は完璧だ。


 料理ができるようになれば生活費も浮く。俺の料理が壊滅的ではない限り……。よし、少しずつ作れるものを増やしていこう。







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