第14話 私はあなたに大切なことを教えてもらいました

─────12月25日



「あっ、弘輝くん、お姉さんも来てあげたよ」


 俺は七瀬しか呼んでいないはず。それなのになぜかさこさんと宵谷先輩がいた。もちろんそこには七瀬もいて、すみませんと申し訳なさそうしていた。


「七瀬ちゃんと偶然会って、そしたら弘輝くんの家でクリパ的なことするって聞いて」


「聞いて……?」


「うん、来ちゃった」


 何が来ちゃったなんですか……。様子から見てなこさんと宵谷先輩が一緒にいて、そこで七瀬に出会ったと思われる。


「まぁ、大勢の方が楽しいですからいいですけど、七瀬は────」


 俺は彼女にだけ聞こえるよう小さな声で耳元で言うと彼女は顔が赤くなった。


「だ、大丈夫です! 先輩方も一緒に」


 七瀬は近くにいた宵谷先輩の手を取り、何かをお願いしているような目でいた。


「可愛い。立川、七瀬ちゃんに何て言ったの?」


 宵谷先輩は七瀬を後ろからハグし、俺に尋ねてきた。


「えっ、俺は────」

「い、言わなくていいです」


 七瀬からそう言われて俺は言葉を止めた。困らせるようなことは言っていないはず。


 まぁ、七瀬がなこさんと宵谷先輩もいていいというなら彼女達も参加していいか。


 取り敢えず、七瀬の先輩方を家に入れて、特にすることもないのでお喋りタイムとなる。


「そう言えばなこさん、東先輩とクリスマスを過ごさなくていいですか?」


 なこさんには東先輩という好きな人がいる。てっきりその先輩と今日は一緒にいると思っていた。


「男子だけでクリパだってさ。好きな人が頑張って誘ったのに東は酷い奴だよ。よしよし、私が変わりに東先輩になってあげるよ」


 宵谷先輩は、なこさんの頭を撫でながらそう言う。


「なこちゃーん!」


 変わりになるって言ったけどどう変わりになるのだろうか。


 先輩達の話を聞いていると隣にいる七瀬からツンツンと肩をつつかれた。


「立川くん」


「ん? どうかしたか?」


「この前言っていた手作りケーキなのですが、二人になったタイミングで食べましょう」


「うん、わかった。冷蔵庫に冷やしておく」


 七瀬からこっそりケーキが入った箱をもらい、俺はそれを持ってキッチンへ持っていった。


「ところで七瀬ちゃんは、好きな人はいないの?」


「す、好きな人ですか……?」


 宵谷先輩からの質問に七瀬は戸惑う。こんな男1人、先輩2人の前で言えるわけないだろう。


「そうそう、好きな人とか気になってる人とか」


「そうですね、気になる方はいますが、その方が好きかどうかはわかりません」


「だってさ弘輝くん」


 なこさんにそう言われるが、何がだってさなのかわからない。


「ちなみにその気になる人が誰かって教えてもらえる?」


「お、教えられません……」


「弘輝くんにも?」


「はい、立川くんにも教えられません」


 そう言って顔を赤くする七瀬を見た先輩方は、可愛いな~と言って彼女の反応を楽しんでいた。


「あっ、その感じだと付き合うことには興味ある?」


 七瀬の恋愛トークに興味があるのか宵谷先輩が彼女に尋ねる。


 いつも晴斗から惚気話しか聞かないが、こういう甘酸っぱいトークっていいなと思いながらこっそり女子の話を聞いて飲み物を飲む。


「少しはあります。最近、友達からデートの話を聞くのですが、羨ましいです」


 身近な友達……おそらく千夏だろうな。最近、お昼になると仲良さそうに話してるし。





***




 先輩達が帰った後は、約束通り待ちに待った七瀬の手作りショートケーキを食べることができた。


「ごちそうさまでした」


 一言で言うならばそれはもう美味しかった。自分から選んでショートケーキを食べることはあまりないので久しぶりに食べた。


「どうでしたか?」


 同じく食べ終えた七瀬は、俺に感想を求めてきたので俺は思ったことをそのまま伝えた。


「美味しかった。それにしても手作りって凄いな」


「ありがとうございます。また作りますね」


「うん、楽しみにしてる」





***




 外は寒いが七瀬が雪の上を歩いてみたいとのことで行き先も決めずに散歩することになった。


「七瀬、寒くないか?」


「少し寒いです」


「最近、寒いよな。早く夏になってくれたらいいんだけど……」


「そうですね」


 彼女は、両手を合わせて俺に向かって微笑んでだ。彼女の笑顔を見て俺は何か忘れていそうな気がした。けど、思い出せない。


 思い出した方がいいことなのか、それとも思い出さなくてもいいことなのか……。


 考えながら歩いていると彼女が隣にいないことに気付く。ゆっくりと後ろを振り返るとそこには近くにある木を見ている七瀬の姿があった。


「どうした?」


「昔、ここから花火を見たんです。ふふっ、すみません、冬なのに夏の話をして」


「花火……か。今年は見てないな」


「私もです」


「……寒いしそろそろ戻るか」


 来た道を帰ろうとすると七瀬が真っ正面から抱きついてきた。


「七瀬……?」


「私は、あなたに大切なことを教えてもらいました」



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