第13話 聖女様は似合うと言われて一人で悶える
12月24日。二学期の終業式。俺は一緒に帰る約束はしていないが、七瀬がいる四組の教室の前で待っていた。
約束をしなくてもここ最近はいつも一緒に帰るのでどちらかが教室の前で待つというのが当たり前になってきていた。
ホームルームが終わったようで教室から生徒が出てきた。その中に七瀬もいて俺に気付くかと思ったが、俺のクラスの方へ歩いていってしまう。
(あれは気付いてないな……)
俺は急いで彼女の元へ行き、優しくポンポンと肩を叩いた。
「七瀬」
名前を呼ぶと彼女は後ろを振り返り、俺の顔を見るなり嬉しそうにする。
「立川くん! 気付かなくてすみません、てっきりまだホームルーム中かと……」
「今日は俺のクラスの方が早かったな。あっ、クリスマスパーティーだけど、俺の家で集合ってなったから」
横に並んで歩きながら今日のクリスマスパーティーのことを七瀬に伝えた。
「わかりました。夕方頃に伺えばよろしいですか?」
「うん。迎えに行こうか?」
「む、迎えにですか?」
俺の家の場所は知っていると思うが、色々と作ったものを持ってくるそうでそれを一人で持てるか俺は心配だった。
「い、いえ、大丈夫です。迷子にはならないので!!」
「あぁ……迷子の心配はしてないよ」
***
一人暮らしだが、俺が住むこの場所は広い。広すぎて使ってない部屋があるぐらいだ。
いつも一人でいるこの家だが、今日は四人いる。晴斗や千夏、そして七瀬。静かな場所が今日は騒がしい気がする。
「どうしたの? 弘輝らしくない顔してるよ」
クリスマスパーティーをするため各自持ってきた食べ物をテーブルに並べていると千夏が話しかけてきた。
「俺らしくない顔ってなんだよ」
「ん~なんかこの空間いいな~ってぼーっとしてるところ。いつもはシャキッとしてるからさ」
シャキッと……してるのか? ぼっーとすることのほうが多い気がするけど。
「ところで、ことりんの私服はどうよ。私が選んだやつなんだよ」
千夏にそう言われて彼女の服を見た。上は白いニットで下はショートパンツを履いていた。よし、帰りは送って帰ろう。
こんな格好で一人歩かせていたら変な人が寄ってくるはずだ。
「可愛いけど、可愛すぎてダメだ。あれを着て人が多いところを歩いてみろ、絶対ナンパに合う」
「なんかシスコンの兄みたい。買うって決めたのはことりんだよ。誰かさんに見てもらいたいから今日は着て来たんだって」
誰かに見てもらいたいって千夏か?と思ったが、千夏がこちらを見ていたので俺だろう。
千夏と話していると取り皿を持った七瀬がこちらへ来た。
「二人とも、そろそろ始めませんか?」
「うん、始めよ、クリスマスパーティー」
「そうだな」
ジュースが入ったグラスを皆、片手に持ち乾杯する。そしてクリスマスパーティーは始まった。
皆、それぞれ持ってきた食べ物は違った。俺はピザで七瀬が家で作ってきてくれたアップルパイ。晴斗は飲み物で千夏はフライドチキンだ。
「わ~やっぱ料理上手だね、ことりんは」
七瀬が作ったアップルパイを見て千夏は写真を撮っていた。
「そうですか? レシピを見て作ったのでまだまだですよ」
七瀬は、料理人でも目指してるのだろうか。本人はまだまだというが作れるだけ凄い。
隣で美味しそうに食べていた七瀬が飲みものを飲んだ後、ピザをじーと見ていた。
七瀬のところからピザは少し遠く、取れるのかと考えているのだろう。
ピザの種類は二種類ある。照り焼きとツナマヨコーンだ。
「どのピザがほしいんだ?」
そう尋ねると彼女とバチッと近距離で目があった。すると、七瀬は耳を真っ赤にして、ギリギリ聞こえる声の大きさで呟いた。
「て、照り焼きを……」
「わかった」
取り皿をもらい、彼女の箸を使って照り焼きのピザを取った。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「どういたしまして。食べたいものがあったら遠慮せず食べておいた方がいいよ。晴斗と千夏は遠慮せず食うからな。まぁ、そういう俺もだけど」
そう言うと彼女は小さく笑った。
「ありがとうございます。遠慮せず食べますね」
今日は七瀬がいるから晴斗と千夏は少し遠慮している。彼女が食べたいものを食べられるよう気にしている。なのでまぁ、大丈夫だろう。
「そういや、一人暮らしだけど自分の部屋はあるの? ここは自分しか入らせない的な部屋」
千夏は辺りをキョロキョロと見渡し、俺に聞いてきた。
「勉強机とかベッドがある部屋はあんまり誰かを入らせたりはしないな」
「へぇ~もしかしてあれがあったり?」
香奈はニヤニヤして聞いてくる。遠回しにあれと聞いてくるが、俺と晴斗はすぐにわかった。
「あの、あれとは何ですか?」
七瀬はあれがわからず千夏とわかっている俺と晴斗に尋ねてきた。
「男の子の部屋にありそうなやつ?」
「晴斗、ヒントを与えるな。七瀬、わからないままでいいぞ」
「嫌です。一人だけわからないなんて仲間外れみたいです」
(仲間外れって、そんなつもりは全くないんだが……)
「ごめんごめん。あれっていうのは────」
千夏は耳元で七瀬に教えてあげた。すると、七瀬は、顔を真っ赤にして下を向いた。
「な、なるほど……あれってそういう……」
「言っておくが、俺は持ってないからな。本棚には小説や参考書しかない」
「じゃあ、ベッドの下は?」
「ない。はい、この話は終わりな」
そう、いかがわしいものは何も……ない。詮索されても困る。
楽しく食べた後は、みんなでトランプやプレゼント交換会をしたりしていた。
「じゃ、お邪魔ましたー」
晴斗と千夏は先に帰り、七瀬はというとまだ少しここにいたいそうで残っていた。
「ありがとな、片付け手伝ってくれて」
「いえ、場所を提供してもらったので当然です。今日は楽しかったです……誘ってくださりありがとうございます」
七瀬を誘って良かった。今日もまた彼女の新たな一面が見れた気がする。
「こちらこそ来てくれてありがとう」
一段落つき俺はソファに座る。すると、七瀬も隣に座った。
「終わった後はなんだか寂しくなりますね」
「そうだな……」
隣を見ると彼女は呟いた通り、寂しそうな顔をしていたので俺は少し彼女に寄った。
「その服、千夏に選んでもらったんだって?」
「はい、選んでもらいました。どうですか?」
こちらを見て似合っているかどうか尋ねてきたので俺は正直に答えることにした。
「うん、その服、七瀬に似合ってるよ」
「はぅ!」
感想を述べた瞬間、七瀬が胸をおさえて変な声を出したので心配になった。
「な、七瀬? 大丈夫か?」
「だ、だいじょふです。ご心配なく……」
(噛んでる……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます