第12話 可愛くお願いされては断れない

 十二月中旬のある日。聖女様は、今日も変わらず女子に囲まれていた。


「ねぇ、七瀬さん、最近、四組の立川くんといるけどどういう関係なの?」


 琴梨はその質問がいつか来るだろうなとは予測していたので事前に用意していたことを口にする。


「立川くんとは友人です。ですから、変な噂はやめてくださいね」


 そう言ってからのニコッと微笑む。発言とその後の笑顔を見た周りの人達は、黙り込んでしまった。


 琴梨は弘輝に迷惑をかけないためにも彼女達にしっかりと事実を告げた。


「そ、そうなんだ……」


 これ以上は踏み込めない気がした彼女達は、七瀬に手を振り自分の席へと帰っていった。





***




 昼休み。今日は、四人で食堂で食べることになった。七瀬から手作りお弁当を受け取り、食べ始めると千夏が七瀬に話しかけていた。


「ことりん、冬休み中にショッピングに行かない?」


「ショッピングですか? 行きたいです!」


 七瀬は迷うことなく千夏の誘いに乗っていた。


「やった。弘輝と晴斗も一緒に行かない? ダブルデートってことで」


「ダブルデートって……俺と七瀬は付き合ってない」


「まぁ、いいじゃん。四人で行こうよ」


 まぁ、良くないよ。聖女と呼ばれる七瀬の彼氏なんて俺には似合わない。


「七瀬さんと仲良くなるため行こうか」


 晴斗は俺にだけ聞こえるように肩をポンポンと叩きながら言った。


「まぁ、二人がいいっていうなら行こうかな」


 てっきり女子二人で行くと思っていたので俺達が行ってもいいのだろうかと思った。


「じゃ、決まり!」


 昼食後、晴斗と千夏は自販機に飲み物を買いに行くとのことで俺と七瀬のニ人だけになった。


「友達とショッピング、楽しみですね」


「そうだな」


 七瀬は楽しみでしかたがないのかニコニコしていた。


「ところでそろそろクリスマスですね。立川くんはどのようにお過ごしで?」


 クリスマスか……。毎年、イブは友達といてクリスマス当日は家族と家にいることが多い。外に出たら寒いし、人多いしそれなら家にいた方がと思って結局家で過ごすことが多い。


 けれど今年のクリスマスは一人かもしれない。一人暮らしだから家に家族はいない。


「特に何もしないんじゃないかな。ダラダラして過ごしそう」


「ふふっ、なら私と一緒ですね」


「えっ、七瀬も?」


 七瀬が家でダラダラしてるところなんて全く想像できないんだが……。


「えぇ、私もクリスマスは基本家でゆっくりして過ごしています」


「へぇ~なんか意外だな」


 勝手なイメージだが、七瀬はクリスマスにケーキを友達と食べに行っていそうだ。


「クリスマスイブはどうされてるんですか?」


「イブは大体友達とクリスマスパーティーかな。今年は晴斗と千夏でやるって話をしてる」


「た、楽しそうですね……」


 少し羨ましそうに七瀬は言うのでもしかして誘ってあげたら喜ぶんじゃないかと予想した。


「もし良かったら七瀬も来るか? 多分、七瀬が来てくれたら千夏が喜ぶと思う」


「……行ってもいいのであれば私もそのクリスマスパーティーに参加したいです」


「うん、わかった。なら、七瀬のことは俺から晴斗と千夏に伝えておく」


「ありがとうございます」


 お礼を言ってまた彼女は嬉しそうにする。彼女は喜んでいるときの表情がとても分かりやすく面白い。


 やっぱり彼女は笑っている方が似合う。いつもはクールな感じがするが、その時の笑顔とはまた違う。


「と、ところで先ほどクリスマスは家で過ごすと仰っていましたが、その日、私と過ごしませんか?」


「俺と?」


「はい、手作りケーキを作る予定なので食べてほしいなと思いまして。いつもは自分が作って自分で食べるで終わってしまっているので試食してくれる方がほしいんです」


 七瀬が作ったケーキが食べられるって、本当に俺でいいのだろうか。試食してくれる方って俺、そこまで味の感想とか上手くないんだけど……。


「ダメ……ですか?」


 七瀬は、可愛らしく上目遣いをしてお願いをしてきた。これが狙ってやっているのなら何だこいつとか思ってしまうが、七瀬の場合、多分そういうことを自覚なしでやっているのだろう。


(ダメだ……こんな可愛いお願いをされて断れるわけない)


「いや、いいよ。七瀬のケーキ、食べてみたいな」


「では、クリスマスはケーキを作って立川くんの家に持っていきます」

 

「作ってくれるんだし俺が七瀬の家に行った方がいいんじゃないか?」


「いえ、届けに行きますよ」


 彼女はそう言ってイスから立ち上がり、お弁当を持った。


 そろそろ予鈴がなることに気付き俺もイスから立ち上がり、お弁当を持つ。いつもお弁当箱は洗ってから次の日に返すようにしている。


 七瀬を教室まで見送り、俺は晴斗と千夏にクリスマスパーティーに七瀬も参加することを伝えた。


「やった~! ことりん来てくれるんだ!」


 予想通り、千夏は七瀬が来ることに喜んだ。晴斗もいいと言ってくれた。これでクリスマスパーティーは四人で行うことに。


「良くやったよ弘輝。聖女様のクリスマスイブの予定を予約してやったぞ~!」


「はぁ……」


「も~もっと喜ぼうよ。みんな聖女様とクリスマス過ごしたくてことりんのこと好きな男子達が誘ってるらしいんだけど全部断ってるんだって」


「人気者は大変だな。ところで千夏、七瀬の前では聖女ってあんまり呼んでやるなよ」


 この前、宵谷先輩が七瀬のことを聖女と呼んだときに七瀬はあまり呼んでほしそうな感じではなかった。


「ん~理由はわからないけどわかった。ことりんはことりんってことだね」


「うん、まぁ……そうだな」



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