第11話 近くないか……?
晴斗と一緒に千夏に七瀬は中庭にいると伝え、俺達は七瀬の元へ行った。中庭へ行くと彼女は、まだ何かを探していた。
「何やってるんだ?」
「あっ、立川くん。先ほどそこの廊下を通った城市さんが持っていた大切な原稿が風で飛ばされてしまったようで探すのを手伝っているんです」
彼女がそう説明すると後ろから同じ学年の女子が歩いてきた。
「七瀬さん、こっちにはなかった……。探してくれてありがとう、見つかりそうにないしもういいよ」
(ありがとうってことはもしかしてこの方が城市さんか?)
リボンの色から同級生だと判断したが、同じクラスではないため名前がわからない。
「大事な原稿ですから、もう少し探してみてもいいですか?」
「えっ……それは悪いよ……」
「大丈夫です。私が好きで探すので」
(なんか理由が雨が降っていた時に言っていた理由と似ている……)
「俺も探すよ。探す人数が増えたらもしかしたら見つかるかもしれないからな」
「立川くん……ありがとうございます!」
七瀬一人だと心配だから俺も探すよなんてことを思ったのは内緒にしておこう。
「じゃ、私も手伝うよ」
「俺も手伝おうかな」
俺に続き、千夏、晴斗も手伝うことになった。すると、城市さんはペコリと頭を下げた。
「……あ、ありがとうございます」
「皆さんで探しましょう!」
困っている人を見たら助ける。こういうところは七瀬らしいよな。
「じゃ、私はそこら辺探してみる!」
5人はバラけてその大切な原稿を探すことにした。
どんな原稿なのかわからないが、取り敢えずまた風が吹いて遠くに飛んでしまう前に見つけないとな。
探しているとふと女子生徒が2人、七瀬がいる方を見て笑っているのを目にした。
何だ、あの人達は……。1人は名前も知らないが、もう1人は同じ中学だった人だ。
女子2人から目を離し、先ほど頼んできた城市さんがどこにいるか探したが、中庭にいない。
(……なるほどな)
状況を理解した俺は、女子生徒2人に言いたいことを一言言ってから探している七瀬のところへ行き、後ろから肩を叩いた。
「七瀬、原稿はどれだけ探しても見つからない。だからもう帰ろう」
「……なぜですか? 諦めるのはまだ早いと思います」
まだ探し始めると言ってから時間はほとんど経っていない。なので俺が諦めが早い男だと七瀬に思われてしまったかもしれない。
「ところで七瀬はその原稿が飛んでいったところを見たか?」
「いえ、見てません。私は、原稿が飛んでいってしまって困っている城市さんに声をかけました」
「そうか。さっき城市さんが俺に原稿は見つかった、部活があるからと言って部室へ行った。だからもう探さなくていいぞ」
「そうなのですか……見つかって良かったです」
彼女は、両手を胸に当てホッとしていた。
本当のことを言えば彼女は悲しむ。優しさをバカにされていたなんて言えない。
「千夏、晴斗、見つかったからカラオケ行くぞ」
「おっ、見つかったんだ。行こっ、カラオケ!」
千夏と晴斗がこちらに来て、俺は後ろを振り返り、先ほどいた女子2人組を見た。すると、彼女達は俺が見ていることに気付き、走り去っていった。
(何だよ、俺のこと見て逃げるとか俺は悪魔か)
けど、今回のことでわかったが、聖女様と言われて人気者だが、七瀬のことを良く思ってない奴もいるんだな。
「弘輝は、気づいたみたいだな」
「なんだよ、晴斗」
「さっきの城市さんって子、おそらく誰かにやれと言われて七瀬さんに原稿が飛ばされたと嘘をついた。七瀬さんに無いものを探させるために」
「何が言いたいんだ?」
「いや、何も。けど、さっき七瀬さんを見ていた女子達に何て言ったのか気になるな、俺は」
「見られていたのか……。次、七瀬に何かしたら許さんって言っただけだ」
***
「えっ、ことりん、カラオケ初めてなの?」
カラオケルームに入り、さっそく歌おうとする千夏は七瀬の発言に驚いていた。
「はい、こういうところは初めてです。歌える歌はあまりないですし、私は応援することにします」
手拍子をして、横揺れし出す七瀬。応援の仕方が可愛すぎる。
「じゃ、私が1番に歌うね」
「タンバリンでも使うか?」
近くにあったタンバリンを手に取り、七瀬に渡す。
「タンバリンは、立川くんが使ってください。一緒に応援しましょう!」
「えっ……」
俺もやるのかとタンバリンを持ったまま静止していると晴斗がやるんだよと目で言ってきた。
(応援するか……)
カラオケでタンバリンを使って応援なんてやったことないけど。
「ことりん、何か歌えるやつない? ほら、この前進めた曲とかさ。私とデュオでやろうよ」
歌い終えた千夏は、彼女にもマイクを渡して、誘う。
「そうですね、せっかくですし私も歌います」
マイクを両手で持ち彼女は千夏とステージの上で歌い始めた。
七瀬も千夏も歌が上手い。俺はどちらかと言うと上手くも下手でもない。
タンバリンで応援していると歌っている七瀬と目が合った。そして彼女はキラキラした目をして俺に何か伝えそうな表情をしていた。
(な、なんだあの表情は……)
歌い終えると、七瀬はステージから下りて俺のところに来た。
「立川くんも何か歌いましょう。そうです、こちらの歌を!」
彼女はタッチパネルで曲を検索し、それを俺に見せてきた。
(歌える曲だけど……)
「私も歌えますので是非デュオで」
千夏から受け取ったマイクを七瀬、俺と渡ってきた。
「弘輝くんや、君はタンバリン係は卒業した方がいいよ。ことりんのお願い、無視するの?」
千夏は、なぜかニヤニヤしながら言ってくる。
「無視するつもりはないし、タンバリン係になった覚えはないからな」
「つまり私とデュオしてくれるんですね!」
急にグッと距離を詰めてきて彼女は俺の手を両手で握った。
「あ、あぁ……やろうか」
(近くないか……?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます