第10話 頼られる聖女様

 翌日の放課後。4組の教室の前を通ると昨日七瀬が言っていた勉強会らしきものが行われていた。


「七瀬さん、ここ教えてくれない?」


 隣に座るクラスメイトの女子が数学の問題集を持って七瀬のところに来た。


「応用問題ですね、わかりました。少しだけ時間をください」


 教えてほしいと頼みに来た彼女から問題集を借りて七瀬は解き始める。


 皆から聖女と呼ばれる理由がよくわかった。自分の勉強もあるのに頼まれたらそれを嫌がることなく引き受ける。


 俺には真似できん。というか、俺の場合、七瀬のように頼られることがあまりない。


 七瀬の様子を見て俺は、自分のクラスである2組の教室へ戻った。


「も~遅い~。どこまで散歩してたの?」


 時計を見て時間を確認すると休憩してくるといって廊下を歩いてからかなり時間が経っていた。


「ちょっと寄り道してた。俺がいなくても勉強は進むだろ?」


 遅いとか言われてもそれは俺の勉強が進まないだけで千夏を待たせるようなことにはならないはずだ。


「この数学の応用問題が解けないから弘輝の帰りを待ってたの」


「俺じゃなくても晴斗に教えてもらえばいいんじゃないか?」


 千夏の隣にいる晴斗をチラッと見たが、首を振り、俺は無理とアピールしてくる。


(数学の基礎ができても応用はお手上げか……)


「ねっ、弘輝、教えて。今度、ケーキでも何でも奢るから」


「そんなこと言わなくても教えるよ。で、どこがわからないんだ?」


 千夏の隣にイスを移動させ、彼女がわからないという応用問題を教えることにした。


 数学は基礎を固めていればできる問題だ。何も難しくない。


「で、こうなるがわかったか?」 


 わかりやすく説明したつもりだが、教えるのはあまり得意ではないためもしかしたら伝わっていないかもしれない。


「凄いわかりやすかったよ。弘輝、数学だけ凄いからね~」


「数学以外もできる。他にわからないところはあるか? また前みたいにテスト前日に泣き電話してくるなよ」


 この前のテスト前日では早めに寝ようとしていたところ千夏から電話がかかってきた。


 用件は明日ある数学のある問題がわからないから教えてだった。


 前日に言うもんじゃない。教えてほしいのならもう少し早く言ってほしかった。


「し、しないよ~。次は晴斗にお願いするもん」


「いや、晴斗もテスト前はすぐに寝てるだろうし電話はかからないだろうな」


 そう言うと晴斗は強く頷いた。夜の電話はやめてほしいのは彼氏である晴斗も同じだ。


「千夏、俺なんかより絶対弘輝に教えてもらった方がいいと思うよ」


 おい、そんなこと言ったらまた前のように寝るタイミングで電話が来るだろ。


「だよね~」


「すまん、そんなお願いされても俺は睡眠を優先する。前日に焦る人に手は貸さん」


 前日以外ならいい。だが、前日は絶対にやめてほしい。


「わかった。なら、明日までに問題集全部解いてわからないところに付箋貼ってくるよ」


「お、おう……頑張れ」


 本当に全部解けるのかわからないが、本人がやる気なら応援しよう。





***





「やってきたよ」

「偉いな、千夏は」

「わ~い、もっと褒めて」


 千夏は晴斗に抱きつき2人は、目の前に俺と七瀬がいるというのにイチャイチャしている。


 千夏は言った通り、数学の範囲の問題集を全て解いてきた。

 

(まさか本当にやってくるとは……)


「七瀬、騒がしくてごめんな」


 1人黙々と勉強をしている七瀬にそう言うと彼女は、顔を上げて首を振る。


「いえ、こういう騒がしい方が勉強会は楽しいので構いませんよ」


「ならいいんだが……。千夏、わからないところだけどまずはこのノートを見て、もう一度解いてくれ」


 実は昨日俺も数学の問題集を最後まで解いた。千夏にも教えるだろうと思い、ノートには途中式を省かず書いてきた。


「えっ、弘輝、数学の課題もう終わったの?」


 ノートを受け取り、中をペラペラとめくった千夏はテスト範囲のところまでやっていることに驚いていた。


「千夏が最後まで解くと言っていたからな。俺も早めにやっておこうかなと」


 千夏のように前日にやる人ではないが、俺は基本ギリギリまでやらない。けれど、誰かに教えるとなると一度は自分が解いていないとすぐに教えられない。


「ありがと弘輝。取り敢えず、このノートを見てやってみるね」


「あぁ、わからないところがあれば聞いてくれ」


「オッケー」


 千夏はノートを開き、昨日やってわからなかったところを解き始めた。


(さて、俺も苦手な英語をやろう)





***





 テスト週間が終わり、週明けはテスト返却ホームルームがあった。


(俺、いつもより頑張ったんじゃね?)


 返ってきた答案を見て嬉しさのあまりニヤニヤしそうになるが、キモいと晴斗に言われそうなので抑えた。


「弘輝、どうだった?」


 放課後、晴斗と千夏は俺のところに来てテストのことを聞いてきた。


「英語が、90だった。最高得点だな」


「やったじゃん! ことりんに付きっきりで教えてもらってたもんね」


 付きっきりってわからないところがあれば質問していただけなんだが……。けど、七瀬のおかげで取れた点数だ。


「千夏は数学どうだった?」


「80点! ふふん、私にしては頑張ったんだよ」


「凄いな、やり方を変えたおかげだな」


「いやいや、弘輝のおかげだって。ありがとね」


「……どういたしまして」


「よし、テストも終わったしカラオケだね。ことりんも誘っていこ~」


 千夏はそう言って七瀬のクラスに先に行ってしまう。


「よし、俺達も行こうか」


「そうだな……ん?」


 教室の窓から中庭を見ると何かを探している七瀬を見つけた。







     

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