第16話 新年明けましておめでとうございます

「新年明けましておめでとうございます」


 待ち合わせの神社に行くと俺より先に七瀬が来ていた。


「明けましておめでとう。じゃあそういうことだから母さんは────」

「あなたが七瀬さんね! 初めまして、弘輝の母、立川静香です」


 ここまで一緒に来た母さんが七瀬を見つけ、彼女の手を取って挨拶した。


「立川くんのお母さんですか。初めまして、七瀬琴梨です。立川くんとは仲良くさせてもらってます」


 彼女は、丁寧な挨拶をして小さく会釈した。


「こちらこそ、弘輝と仲良くしてくれてありがとね、七瀬さん」


「い、いえ……」


 昨日から俺の家に泊まっている母さんに七瀬と初詣で行くと伝えたら母さんが私も着いていく的なことを言い出し、こうして一緒にここまで来た。


「じゃあ、私は別行動するわ」


 母さんは七瀬に会えて満足したのかお参りして帰ろうとする。


「別行動……せっかですし3人でお参りしませんか? 立川くんもそれがいいと思いますよね?」


 七瀬の提案に俺は頷く。彼女がいいなら俺もそれでいい。母さんは二人っきりの方がいいから別行動すると言ったのだろうが、俺達はそんな関係ではない。


「じゃあ、一緒に行動しようかしら」


「はい、ではさっそく行きましょう」





***





 お参りした後は、お昼ご飯を食べに七瀬と母さんの3人で近くのレストランに入った。食べ終えた後は、途中まで七瀬も一緒に帰ることにする。


「で、2人はクラスメイトかしら?」


 母さんは、ニコニコしながら目の前に座る俺と七瀬に尋ねた。


「いえ、立川くんとは同じ委員会で最近、仲良くなったんです」


「あら、同じ委員会。付き合ってはないの?」


 母さんがそう尋ねると七瀬が誤解されそうな反応をした。顔が真っ赤で手を振って全力で否定する。


「つ、付き合うなんて……私と立川くんは友達です」


「可愛い反応ね~、そうだ、七瀬さんは、ケーキは好きかしら?」


「ケーキ? 好きですけど……」


「なら、弘輝の家に寄っていかない? 美味しいケーキがあるの」


 どうやら母さんは七瀬を気に入ったようで帰す気はないらしい。


「い、いえ……私は────」


 と断っていた七瀬だが、数分後、彼女が俺の家にいて美味しそうにケーキを食べている。どうやら母さんの言葉に断れなかったらしい。


「美味しいです!」


「それは良かったわ」


 お昼を食べた後なのによく食べれるな。俺の分もあるらしいが、昼食でお腹一杯なため食べられない。


 スイーツは別腹というが、そんなことを言われてもお腹一杯な時にスイーツは入らない。


「お弁当を? ありがとうね、何かお返しにできないかしら?」


 俺がキッチンで飲み物を飲んでいる間、母さんと七瀬は何やら話していた。


「お礼は必要ありませんよ。作ってもらったものを美味しく食べてくれる表情を見るだけで私は十分お返しをもらっていますから」


(えっ、食べてる時、七瀬に見られていたのか?)


 確かに食べてる時視線は七瀬から感じるが、それは話すからであって……。


「そうなのね。あっ、弘輝も一緒に話しましょ」


 女子会状態で入りにくかったが、(いや、入るつもりもないが)母さんが手招きし、七瀬が座るソファの隣に座ったらどうかと勧めてくる。


 断る理由もないので俺は少し空けて女の隣に座った。


「そう言えば、オムライス、無事作れました?」


 七瀬は、この前、俺が料理にチャレンジするためオムライスを作ると言った話を覚えており、どうなったか聞いてきた。


「まぁ……写真見るか?」


「み、見ます!」


 七瀬とは近いのもあれなので少し空けていたが、彼女が俺の横へ寄り、グイッと近づいてきた。


(七瀬さん、また近いですよ……)


「これ……初心者にしては頑張ったと思ってる」


 スマホで撮った写真を七瀬に向けると小さな声で「美味しそうです」とボソッと呟いた。


「料理できたんですね」


「やればできたな……」


「では、もうこれからは私のお弁当は必要ないですか?」


 うるっとした目で彼女は尋ねてくる。オムライスが作れただけでお弁当を作るなんてまだ俺にはできる気がしない。


 ここは、引き続きお弁当を作ってほしいと頼むのが正解な気がする。


「いや、作ってほしいです……。七瀬の弁当、美味しいから」


 そう言うと彼女はわかりやすいほどの笑顔でニコニコと笑う。


「ありがとうございます。立川くんのために作りますね」


「ありがとう」


(相変わらず笑顔が天使だ)


「七瀬さん、料理好きなの?」


 母さんは、俺達と話を聞いており、気になったのか彼女に尋ねた。


「好きですよ。親の帰りが遅いので夕食は私とお婆様の交互で作っています」


「そう、偉いわね、七瀬さんは。さて、私はそろそろ帰ろうかしら。七瀬さんに会えたし、弘輝がちゃんと1人で暮らせてるか知れたしね。七瀬さん、弘輝のことよろしくね」


 母さんがそう言うと彼女は、大きく頷いた。


「はい。ケーキ、ご馳走さまでした。とても美味しかったです」


「またお話……そうだ、連絡先交換しましょう」


 初対面だよな?と疑うほどに俺の目の前では母さんと七瀬が連絡先のやり取りが行われていた。


「じゃ、次は夏休みに来るわね」


 母さんは荷物を持ち、玄関前で俺に次はいつ来るのか伝えた。今回は、連絡なしで急に来たから驚いた。


「わかった。てか、俺がそっちに帰るよ」


「そう? なら、待ってるわ。お邪魔しました、七瀬さんもまたね」


「はい、また」


 また会うって今回みたいなことがない限り会わない気がするけどな……。


「七瀬もそろそろ帰るか?」


 母さんが帰り、彼女も帰るだろうと思っていたが、彼女はどうしようかと悩んでいた。


「もう少し立川くんと話してもいいですか? 帰っても一人ですし」


「俺は構わないよ。と言っても今からスーパー行くんだけど、家で待ってるか?」


 外は寒いので出たくないだろうと思ったが、彼女は首を横に振った。


「いえ、一緒に行きます」


「ありがとう」







         『第17話 一人より二人で』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る