【完結】聖女様に心溶かされていく話

第2話 もう1回

「七瀬さん、ナイスシュートだよ！　今の凄い良かったよ！」

「いえ、佐々木さんのパスのおかげですよ」

　昨日の雨が嘘だったのではないかと思うぐらいに今日は快晴だ。そんな中、俺のクラスの2組と七瀬がいる4組は合同で体育の授業をグラウンドで行っていた。

　男女共にバスケを行い、男子が休憩時間の間、俺は友達と女子が行っている試合を見ていた。

「いや～、今日も変わらず千夏は可愛いな」

　そう言って俺に共感を求めてきたのは高校で初めてできた友達である岩田晴斗（いわたはると）だ。

　そしてショートカットの彼女、杉本千夏（すぎもとちなつ）は晴斗の彼女だ。

「そうだな。千夏、手振ってるぞ」

　そう教えると晴斗と千夏は手を振り合い、楽しそうだった。

「弘輝も彼女作ったらどうだ？　世界変わるぞ」

「そんな大袈裟な……。それより彼女持ちの晴斗から具体的に彼女ができて変わったところが聞きたい」

　いつも晴斗から千夏との惚気話を聞かされていたので恋愛に興味がなかった俺は少し興味を持ち始めていた。そのことを言ったらからかわれるので晴斗にも千夏にも言っていないが……。

「んー、そうだなぁ。癒しの千夏といれて学校生活が前よりも楽しくなった」

「他には？」

「後は、千夏の手料理が食べられる」

「晴斗の方が料理上手いし自分で作ったらいいんじゃないか？」

「いやいやいや、彼女が作ったのを食べるのがいいんだよ。下手でも愛情がこもってたら食べたいもんだ」

「そうなのか……」

　彼女がいたら俺もそう思うのだろうか。まぁ、好きな人も気になる人もいない俺にはまだ早い話な気がする。

　水分補給をして帰ってくると試合をしている方からキャーと歓声が聞こえてきた。

　晴斗がいるところへ行くと彼は手招きしたので隣に並ぶ。

「七瀬さんの人気は、相変わらず凄いな。弘輝、彼女と同じ委員会だろ？　話したりしないのか？」

「しないけど……」

「気になったりは？」

「しないな……」

　と言いつつも昨日までの自分ならしないと言うだけで終わっていただろう。けど、今日の自分はおかしい。見かけたら自然と彼女を視線で追ってしまっている。

　まさか昨日話しただけで好きに……いやいや、一目惚れした覚えはない。きっと昨日のことがあって彼女のことを気にかけてしまっただけだ。

「はーい、休憩終了！　試合やるチーム決めるから集合な」

　先生から集合がかかり、七瀬から目線を外そうとしたその時、彼女と目が合った。すると、七瀬は俺に向かって手を振った。

(俺に……だよな？)

　後ろを振り返るが誰もいないので俺は小さく手を振った。

＊＊＊

　ピンポーンと夕方頃にインターフォンが鳴った。

　こんな時間に誰だろうか。連絡もなしに親が来ないはずだ。

　テレビドアホンを見るとそこにはエントランスにいる私服姿の七瀬がいた。

(えっ、七瀬？)

　なんでなんでと頭の中で考えていると俺はあることを思い出す。

─────『ジャージは洗って返しますね』

　って言ってたよな。何か、手に持ってたっぽいし。取り敢えず、下のドアを開けてあげた。

　開けてから数分後。次は家のインターフォンが鳴った。ドアを開けると眩しい笑顔の彼女がいた。

「こんばんは、立川くん」

「あぁ、こんばんは……」

　上は白い長袖に下は黒のロングスカート。髪はいつもは長くて綺麗な髪の毛は、下ろしているが今はハーフアップになっていた。

「これ、昨日借りたものです」

　紙袋に入ったものを渡され、俺はそれを受けとる。ジャージだけしか入っていないはずだが、なぜか重い。

「ふふっ、借りたジャージ、折り畳み傘とお礼の品を入れておきました」

「お礼の品？」

　気になり、受け取った袋の中を見るとそこにはタッパーに入れられていた肉じゃがあった。

「少し作りすぎたのでお裾分けです。おかずは作らないと聞きましたので」

「あ、ありがとう……」

　ん？　少し作りすぎた？　お母さんが作ったのなら作りすぎたとは言わないよな。

「もしかしてこれ、七瀬が作ったのか？」

「えぇ、基本夕食は自分で作っていますので」

「偉いな、七瀬は」

　可愛らしくてつい無意識に俺は彼女の頭を撫でてしまった。すると、七瀬は驚いた表情をしたので俺はすぐに手を離した。

「ご、ごめん！」

「い、いえ……。もう1回してもらってもいいですか？」

「うん───って、もう1回？」

　聞き間違いかもしれないと思い、聞き返すと彼女はコクりと頷いた。

「安心しましたので……してほしいです」

　上目遣いに可愛らしいお願い。断る理由もなく、俺はもう一度彼女の頭を優しく撫でた。

「ふふっ、ありがとうございます」

　ふにゃとした彼女の表情に俺はドキッとしてしまった。小動物のようなこの可愛さにドキドキしないわけない。

「では、渡せましたし帰りますね」

「俺の家でゆっくりしてから帰らないか？」

「えっ……？」

　何言ってるんだろうか俺は……。まだ話したいと思ってしまい、引き止めてしまった。

「あっ、えっと、やっぱりさっき言ったことは忘れ───」

「いいのですか？」

「……俺は構わないけど」

「では、お邪魔してもよろしいですか？　私、立川くんと少しお話ししたいです」

　話したいのは俺だけじゃなかった。彼女も俺と話したいそうで家に招くことにした。