【完結】聖女様に心溶かされていく話
柊なのは
1章 聖女様は、なぜか俺との距離が近い
第1話 聖女様
「七瀬?」
友達と寄り道して別れた後、俺、
彼女の名前は
俺と彼女はクラスメイトでもないし、親しい間柄ではないが、同じ委員会に入っているため初対面ではない。
服装は私服だったため、一度学校から家に帰宅し、外に出たと思われる。
今日は、1日中、雨が降っていたので傘を持ってくるのを忘れたというわけではなさそうだ。
あのままだと風邪を引く。俺は、傘を差したまま彼女に声をかけることにした。
「何やってるんだ? 風邪引くぞ」
後ろから声をかけると彼女は、俺の声に驚き、肩をビクッとさせた。そして後ろをゆっくりと振り返り、俺の顔を見るとなぜかホッとしたような顔をした。
「立川くんですか……。私は好きで雨に打たれてますので心配しなくても大丈夫ですよ」
彼女はそう言うが、好きで雨に打たれるやつなんていないだろう。俺は、傘に彼女も入れるようにし、話を聞くことにした。
「風邪引いてもいいのか?」
「風邪引いても親は心配しませんし、いいんじゃないですか?」
「いや、心配するだろ。とにかく家に帰った方がいい。それか建物の中に入るか」
今、ここで俺がわかったと言って彼女を1人にすると彼女はずっとここにいるだろう。
何とかして雨が降ってないところに連れていきたいのだが……。
「立川くんは、私のことなんか気にせず帰ってください」
「風邪引いたら明日、友達が心配するぞ」
「友達なんていませんよ。私が1日休んだぐらいで心配する人は誰もいません」
友達がいないと言われても彼女の周りにはいつも人がいる。いないって言ってもな……。
「七瀬は、誰もいないと思っているかもしれないが、俺は心配する」
「お友達でもないのに?」
「あぁ、友達じゃなくても傘も差さずに雨に打たれて風邪を引いた、なんてことになったら誰だって心配するに決まってるだろ」
心配なことは、風邪を引くことだけじゃない。なぜ傘も差さずに立ち尽くしていたのかも気になるし、何があったのか心配だ。
「立川くんは、優しい人ですね」
その時、俺は初めて彼女の笑顔を見た。いつも見るのはクールで近寄りがたい雰囲気を纏っているが、今見た笑顔はそんな雰囲気を壊すようなものだった。
「七瀬がここにいるなら俺もここにいることにする。雨に打たれながらな」
「ダメですよ、立川くんまで風邪を引きます」
「ダメなら家に帰ることだな。傘ないみたいだし、送っていくことになるけど」
七瀬が雨に打たれたままいることを選ばないようそう言うと彼女は「意地悪です」と言って頬を膨らませた。
「雨に打たれることはやめますが、家には帰りたくありません」
「何で?」
「親と喧嘩しました。ですので今は帰りたくありません」
(帰りたくない……か……)
「なら、帰りたいと思うまで俺の家にいるか? ほら、そんなずぶ濡れな格好で建物の中とか入りたくないだろ?」
「……家?」
じとーとした目で七瀬から見られており、俺は慌てて口を開いた。
「へ、変なことするつもりはないからな! これ少しだけ持っててくれ」
「はい……?」
七瀬に傘を少しの間だけ持ってもらい、俺は自分が着ているジャケットを脱ぎ、それを彼女の肩にかけた。
「まぁ、家に行くか、建物の中に行くかは七瀬の自由だけど風邪引くからそれ着とけ」
彼女に傘を持ってもらったので「ありがとう」とお礼を言い、傘を持つ。すると、七瀬は肩にかかったジャケットが落ちないようぎゅっと手で握った。
「ありがとう……ございます……」
「うん。で、どうする?」
「急に立川くんの家に行ったら親に迷惑なのでは?」
「俺、一人暮らしだし迷惑にはならないよ」
「……で、では、お邪魔します」
***
いや、今さら気付いたんだが、俺、色んな男子から痛い視線が来るようなことをしてないか?
自分の家に学年1の清楚系美少女がいることが夢のようだ。
濡れたままだと風邪を引くので七瀬は、シャワーを浴びることになった。服が濡れているため俺のジャージを貸すことに。
「着替えというのはこれですか?」
俺のジャージを着た七瀬は、浴室から出てきた。
「うん。サイズ合ってなくてごめんな」
「い、いえ……大丈夫です」
「ソファ座っていいよ。はい、お茶」
「あ、ありがとうございます」
ソファに座った七瀬は、俺が淹れた温かいお茶を飲む。
「これ美味しいですね。お茶を淹れるのが上手いです。そう言えば、一人暮らしと聞きましたが、料理はどうされてるんです?」
「料理は、ご飯炊いて、おかずは基本スーパーで出来たものだよ。冷凍食品とか」
料理は、やってみたら案外できるかもしれないがめんどくさいと思いやったことがない。
「自分で作ったりは?」
「しないな。俺、作れないし」
「そうですか」
委員会が一緒でもここまで話したことはなかった。近寄りがたかったが、話しやすい。
「七瀬って話しやすいな」
「そうですか?」
「うん、嫌な意味じゃないけど、七瀬、近寄りがたい雰囲気があったからさ」
「……やはりそうなのですね。クラスメイトと話していると距離を感じるんです。私、怖がられてるんですかね」
いや、多分違う気がする。怖がるというより高嶺の花みたいな感じで見られてるからだと思う。
「怖がってはないと思うよ」
「そう……ですか。私はもっと皆さんと話したいです」
一度決まった印象は中々変わらない。七瀬は、成績優秀でスポーツ万能で完璧なイメージが出来てしまっており、そのイメージのせいでクラスメイトと距離ができている。
「ご、ごめんなさい。私の話しなんてどうでもいいですよね。お茶、美味しかったです」
そう言って七瀬はソファから立ち上がり、帰ろうとする。
「七瀬」
これだけは言っておきたいと思い、名前を呼び彼女を引き止めた。
「困ったことがあれば、相談乗るからな」
「ありがとうございます。その時は頼りますね」
ペコリと一礼し、彼女は玄関の方へ向かう。俺は玄関まで見送ろうと思い、彼女についていく。
「ジャージは洗って返しますね」
「わかった。あっ、まだ雨降ってるから傘借りていって」
「はい、ありがとうございます。では、お邪魔しました」
こうして話すのは今日で最後だろうと思い、俺は彼女を見送った。
***
彼に借りた傘を差して家へ向かう中、琴梨は、誰かに会わないよう願いながら周りを見て歩いていた。
立川と書かれたジャージ姿でクラスメイトに会えば色々と質問責めにあってしまう。
(立川くん……優しかったです)
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