第40話 それはもう友達でしょ

「──で?」


 拘束具を着けられて、ガタンガタンと上昇していく身体。


 時折跳ねては、上下左右に軽く揺すられて酔いそうになる。


 昔のお父さんの運転を思い出してしまい、更に酔いそうになる。


「なんでこうなる?」


 ジェットコースターに乗り込んだ私達は、綺麗に男女に分かれて乗車した。


 謎に横溝くんが、「僕達男子が前に行くさぁ。女の子を危険な目に合わすわけにはいかないからね☆」とかほざいてたな。


 なんというか……。面食いの女子なら、「きゃ♡ 横溝きゅん♡♡」ってなるんかもだけど、私、蒼食いだから。蒼しか勝たんから。ジェットコースターはガタンガタンだけど、私は勝たん勝たんだから! 


 ええい! こんな訳わからん思考なのも、隣に座ってるこの女のせいだ!


「それはこっちのセリフなんですけど」

「なんでそっちのセリフなのよ」

「わたしだって水原くんの隣が良かったってことよ」

「なっ!?」


 こんなはっきりと蒼狙いを宣言されてしまい、今にも突っかかりそうになるが、残念。拘束具を着けられてしまい身動きが取れない。


 ちくしょー! 外せええええ!


 ガタンガタン。


 あー! 無理! やっぱりガッチリホールドよろ!!


「ふ、ふふふ、ふ、わたしが水原くん狙いなのを知って、怖気ついたのね」

「ちがわい。普通に怖くない? このジェットコースター、普通怖くない?」

「べ、べべべ、別に? 怖くなんてないわよ」


 あー、これ、あれだ。自分よりパニックになってる人を見ると落ち着くやつだ。


「そう言いながら、私の手を思いっきり握ってくる件」

「あ、ああ、たんたが怖がってるから手を繋いであげようと思って」

「遠慮しときます。あと、手汗やばいので離してください」

「は、はあ!? わ、わたしが手汗なんてかくはずないでしょ! あんたの手汗よ!」

「はいはい。私の手汗ですー。バスケのし過ぎて汗臭い手汗出てますので離してー」

「臭くない臭くない! めっちゃ良い匂い! 陸奥さんの手汗フレグランスの香りよ!」

「じゃこの臭いのは成戸さんの手? うわぁ」

「わたしの手汗臭いから! もうめっちゃ臭いの認めるから! だから手を繋いで!」


 この子、頂上に行くたびに素直になるんだけど。可愛いと思ってしまう自分がいるんだけど。


「今度から成戸さんのこと手汗姫って呼ぶね」

「良い! そのあだ名で良いから! おろして! ギブ! このジェットコースター絶対壊れる! 音やばい!」


 確かに、たまに聞こえる、ばきっとかやばそうな音してるよね。


 この子が隣じゃなかったら蒼に抱きついてたのに……くそぉ。腹いせだ。


「逝く時は一緒だよ」

「きゃああああああ!!!」


 タイミング良く落下するジェットコースター。


 てか、このジェットコースター普通に面白いんだけど。えっぐ。


 成戸さんは気絶していたな。







「──いや、だから、で?」

「なによぉ?」


 成戸さんが私の腕にしがみついて離れない。


 私的ジェットコースターランキング上位に入れても良いくらいに面白かったジェットコースター。


 横溝くんも気絶していたみたいで、ふたりの回復を待っていると、同時にむっくりと起き出したかと思うと同時に、「次はお化け屋敷に行きたい」とか言い出した。


 成戸さん恒例のグッパで分かれたら、またこの子とペアになっちゃった。


「なんでまた怖いところを提案したの?」

「お、おと、男を落とすには怖いところで抱きつく。乙女の定番でしょ」

「腹黒い定番なこって」


 呆れた声が出てしまうが、彼女の考えには少しばかり共感できるかも。


 怖いふりして好きな人に抱きつく口実ができるのは良いことだよね。うんうん。


 ま、今回は好きな人じゃないけども、好きな人じゃないけども!! くっそ!


「ね、成戸さんは蒼のことが好きなの?」


 薄暗いお化け屋敷。おどろおどろしい雰囲気を放つ空間で、気になることを聞いてみる。


 コツコツと私達の足音を聞きながら彼女が答えてくれる。


「別に」


 震えながらも答える彼女の回答は、彼に興味があるとはいえないものだった。


「だったら、なんで蒼に構うの?」

「わたしを前にして惚れない男がいるわけない。それなのに、あいつはわたしのプライドをへし折ったの!」

「なんちゅうしょーもないプライドだ」

「プライドなんて第三者から見たら全部しょーもないものよ。そんなもん自己満足なんだから」


 なんだか深いセリフが返ってくる。


「水原くんはわたしの自己満足を満たす材料に過ぎないのよ」

「そんなしょーもないことに蒼を巻き込むなよ」

「……しょーがないじゃない。こうやってプライド持って、自己満足を満たさないとやってられないんだから」


 寂しそうに呟く彼女から伝わる震えは、お化け屋敷の震えとはまた違った震え方をしていた。


「あんたは良いわよ……。友達がいて部活して好きな人がいて。さぞ楽しい高校生活なんでしょうね。それに比べてわたしは、ヤリマンだのビッチだのなんだの……好き勝手言われて友達もいない高校生活なのよ。そんなのなにかにすがりつかないとやっていけないじゃない」

「成戸さん……」


 この子にはこの子の悩みがあって、葛藤があって、意味があって行動しているんだね。


「この後、蒼に告白するつもりだから手汗で、ぬとぬとにするのやめてくれない?」

「ちょっと! なにそれ!! ここは、『だったら私達、友達になりましょ』のパターンじゃないの!?」

「そうなの?」

「この見た目だけクールのど畜生女がっ! これだからリア充は! 爆ぜろ! 今すぐに爆ぜろ!!」


 めちゃくちゃ罵倒してくるんですけど。


「友達って口に出す物じゃないと思うけどな。こうやって一緒に遊んだら、それはもう友達じゃない?」

「……なにその小学生の考え」

「違った?」

「……友達って呼んで良いの?」

「もちろんだよ」


『ばあ!』


 唐突に現れたお化けが定番の声を出して現れる。


「友達記念に紹介するね。この子、私の友達のエリコ・ザ・エリコだよ」

『どもー』


 なんか知らんがお化けの人も乗ってくれて成戸さんに挨拶すると、彼女は泡を吹いて気絶した。


『あ、やべ……。お連れさん大丈夫ですかね?』

「運んどくんで大丈夫ですよ」

『すみません。非常口あっちなんで』

「お疲れ様でーす」

『っすー』


 お化けに教えてもらった非常口へ成戸さんを運んだ。

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