第39話 地元によって掛け声は異なる(水原蒼視点)

 とりあえず四人で回ることになったのだが。


 これ、どうすんの?


 いや、この遊園地の絶望とノリで四人で回ることになったけども、志津香以外まともに喋ったことないぞ。


 横溝なんか同じクラスなだけだし、成戸さんは意味不明だし。


 そもそも四人なんて大人数で遊んだことなんてない。いや、俺がボッチってわけじゃないからね。そこは勘違いしないでよね。ほんと。


 しかし、ここは志津香に良いところを見せるチャンス。リーダーシップを発揮して彼女に良いところを見せてやる。


「みんな。とりあえず、アレ、乗らないか」


 ちょっとカッコつけて親指で差した先にはオンボロコースターがあった。


 おどろおどろしい雰囲気を醸し出すジェットコースター。


 コースの支柱は錆びており、レールも変色している。乗り物も


 ん? それは何色?


 紫なのか緑なのか、意味わからん色味を醸し出している。


 もしかして、ジェットコースター風のお化け屋敷? 怖いと怖いを掛け合わしてる? その相乗効果は有効なの? ジェットコースター早くてお化けで怖がる余裕ないけども?


「いいねぇ」


 横溝がノリノリで答えてくれると、成戸さんが次に続く。


「ここは公平にグッパで隣を決めましょ」

「ちょ」


 成戸さんの提案に志津香が反論する。


「成戸さんは横溝くんと来たんだから、横溝くんとペアが良いんじゃない? ね? 横溝くん」

「僕は成戸さんとでも、陸奥さんとも隣で良い。どちらも当たりさ。それに」


 横溝は俺を見てウィンクする。


「キミともね」

「おめぇそっち系か?」

「僕はね、美しい物が好きなんだよ。美しければなんでも良いのさ。あっはっはっ」


 こいつ最強かよ。


「き、決まりね」


 成戸さんが若干引いていた。志津香も引いていたので、これ以上なにも言わなかった。


「よぉし、いくわよー」


 成戸さんが音頭をとってくれた。


「グッパーグッパーでグッパーでほいのほいのほい!」

「「待て待て待て」」


 俺と志津香の声がシンクロした。


「なんだよ今の」

「どのタイミングで出せば良いの?」

「長い長い。音頭が長い」

「ほいほい言い過ぎでは?」


 こちらの抗議に成戸さんは涼しい顔をして返してくる。


「わたしの地元じゃこれが通常よ」


 同じ高校なのに微妙な距離の地域差が出た。


「なによぉ。横溝くんを見習いなさいよ。ちゃんと出してるじゃない」

「え? 地元一緒?」


 志津香が聞くと横溝は前髪をかき分けて、「ふっ」なんてカッコつけてほざきやがる。


「僕レベルになるとなんでも合わせられるのさ。どんな意味不明な音頭でもね」

「おいごら。なにが意味不明だ? おん?」

「キミは意味不明なほどに綺麗さ。成戸さん」

「わかってるじゃない」

「べいびー」


 こいつら結構お似合いだな。







「──で?」

「ん?」


 がたんがたんと処刑台に向かう気持ちにさせるジェットコースターに乗り込み隣を見る。


「なんでこうなる?」

「僕の横じゃ不満かい?」

「そりゃそうだろうがっ! なにが悲しくて男と乗らにゃならんのだ!」


 がたんがたんと更に上昇していくジェットコースター。


「お、おおお、落ち着きたまえ、べいべい」

「誰がバーコード決済だよ。現金派だわ」

「こ、このご時世にキャッシュレスじゃない水原くん、漢だね。そうだ、そんな漢のキミは僕と手を繋ぐチャンスがある」

「ねぇよ」

「さ! 手を繋ごう!」


 強引に手を繋いでくる。


「あ、こら! やめ、やめろおおおお!」

「うおおおおおおお!」


 手を繋ぐと同時にジェットコースターは急降下。


 前からは男の叫び声。後ろからは女の子の叫び声を上げながらジェットスターは一気に加速する。


 てか、このジェットコースター普通に面白いんだけど。えっぐ。


 横溝は気絶していたな。

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